【無幻真天楼第十四回・参】*あいのうた*
積もった雪で一面が真っ白になった境内
木の枝に雪が咲いていた
「寒いッ!!」
ハルミの声が晴れた空に響く
「なら中に入ればいいと思うけど それとも抱きしめてやろうか?」
「アンタの格好が寒いのッ!!」
そういってハルミが竜之助を指差した
「ってか!! ずっとその服じゃない!! ちゃんと洗濯してんの?」
竜之助を頭の先からつま先までを見たハルミが服を引っ張る
「してくれるのか?」
「へ?」
「洗濯」
「ちょッ!!;」
竜之助がモゾモゾと服を脱ぎだす
「ここで脱ぐなッ!!; あーもー…わかったッ!!; わかったけどちょっとこっち来て」
脱ぎかけの服を腕に引っ掛けている竜之助の手を引っ張ってハルミが家の中に入った
「いいのか?」
「何が」
靴を脱いで家に上がったハルミが聞き返す
「俺を入れて」
「どうせみんなには見えてないんでしょ ほら早く」
「いや…俺としては嬉しいんだけど…」
さっさと家の奥に歩いていくハルミに竜之助も続く
「それに誰も居ないしね」
少しハルミの声が響いて聞こえた
「こっち 朝沸かしたからまだあったかいけど一応追い焚きするから入って」
「風呂?」
「どうせ服脱ぐんだから」
ハルミが洗濯機の蓋を開け振り返る
「ちょ…ッ!!; 待って待ってッ!!; 私が出てから脱いでッ!! そしてこの中に入れといて!!」
再び脱ぎ始めた竜之助を見て慌ててハルミが脱衣場から出て行った
「着替え置いておくからッ!!」
やや遠くからハルミが叫ぶのを聞いて竜之助が小さく笑った
「じゃ…遠慮なく…羽伸ばさせてもらおうか」
「父さんのじゃちょっと丈的に小さそう…だけど仕方ないか…」
ガシャーン!!!
突然の物音にハルミが飛び上がった
「な…に?;」
服を握り締めたまましばし放心していたハルミがハッとして駆け出し目指したのは風呂場
「竜之助ッ!!?」
ガラッ
勢いよく風呂場の戸を開けたハルミが見たもの
「あれ? 一緒に入るのか?」
白い鳥のような羽とよくRPGとかに出てくるドラゴンのような緑色の羽
「…な に ?」
「ごめんな ちょっと大きく出しすぎて棚の上のもの落として…」
「はね…?」
ハルミの口だけが動いた
浴室に立ち込めていた湯気がハルミの開けた戸から逃げていき視界がはっきりとしてきた
「ハルミ?」
体を動かさないハルミに竜之助が近づく
「な…竜之助それ…何」
ハルミが羽を指差すと竜之助が羽を少し動かして
「羽」
答えた
「じゃなくてッ!! なんでそんなのがあ…」
ハルミが再び動かなくなる
「ハルミ?」
「きっ…きゃあああああああッ!! 変態ッ!!」
ビシャーン!!
ハルミの悲鳴とともに戸が閉められバタバタという足音が遠ざかる
「変なもの見せんなッ!! 馬鹿ッ!!」
遠くから聞こえたハルミの怒鳴り声
「変なもの か やっぱりびっくりするよな」
羽の他にもうひとつハルミが見た【変なもの】には絶対気付いてはいないだろう竜之助が羽を見て苦笑いをした
作品名:【無幻真天楼第十四回・参】*あいのうた* 作家名:島原あゆむ