【無幻真天楼第十四回・参】*あいのうた*
暗い廊下を歩けばキシキシという音がする
小さい頃は怖くて近づこうともしなかったあの部屋
あの掃除の時に壊して以来まだ直されていない襖
段ボールが積み上がっている室内に入ると少しカビ臭くて
でもそれが何故か落ち着いた
「いたし」
「あ…京助…?」
どうして? みたいな顔をした緊那羅が振り返った
「飯食うってんのにいねぇし」
「ごめんだっちゃ;」
苦笑いをする緊那羅
所々毛羽立っている畳を踏んで京助が緊那羅の隣まで来た
「なにしてん」
「や…なんか…」
京助が開いていた窓からなんとなく身を乗り出す
「…なんだろな…」
「え?」
「なんだろ…よくわからんな今起こってることやら起きたことやらさ よくわからん」
「…京助…」
緊那羅の方は見ずに京助が言った
「考えてもわからんから考えたくねぇんだけど…考えちまうんだよな…でもやっぱよくわからんとかになるし」
話続ける京助
「…でもさ それがいいのかもな」
「え?」
「よく言うじゃん全部わかったらおもしろくないとか だからさ よくわからんってのが丁度いいのかもなって話」
きょとんとする緊那羅
「よくわからんから知りたいしわかりたいし だから死にたくねぇしだから生きてぇし? なんかそんなんんでもって今も自分で何言ってんのかよくわからん」
京助が伸び上がると上半身だけを捻って緊那羅を見た
「ちなみにお前のこともよくわからん」
「へっ?;」
緊那羅が自分を指差すと京助なへっと笑う
「だから」
「…だから?」
「知りたいと思う緊那羅のこと」
静かに部屋に入ってきた風が緊那羅の髪を揺らした
作品名:【無幻真天楼第十四回・参】*あいのうた* 作家名:島原あゆむ