【無幻真天楼第十四回・参】*あいのうた*
京助が社務所の戸を開ける
「かーさーん」
奥に向かって声をかけた
「あら京助…」
「俺はまだよ…」
「…と とーさん…飯っ!!」
ピシャンと戸がしまる音がした
ハルミと竜之助が顔を見合わせる
「父さんだって」
「…ああ」
竜之助が嬉しそうに笑う
「俺の息子だ…」
「あら違うわよ? 私と竜之助の息子でしょ?」
「…そうだな」
「ね?」
ハルミも微笑んだ
チリーン…
風鈴が鳴った
家の中は静まり返っていて
線香の香りで満ちていた
仏壇の回りには御供え物
そして白い箱が4つ
線香の灰がぽろっと折れて落ちる
「ハルミ…?」
竜之助がそんな部屋の中にハルミを探す
いないとわかると廊下を歩きまた隣の部屋を開ける
そうやって広い栄野家の中をハルミを探した
縁側に面した部屋
襖をあけると部屋の中心に寝息をたてる操の姿を見つけた
操から視線を縁側に向けると制服姿の背中を見つけた
柱に体を預けて庭を見ている
「ハルミ」
声をかけるとぴくっと肩が揺れた
操の横を通ってハルミの後ろに立った竜之助
「…何…?」
かすれた声が聞こえた
そのあとには鼻を啜る音
「…みんな…いなくなっちゃった…」
サワサワと風が庭の草木を揺らす
「操…だけになっちゃった…家族…っ」
ハルミの声が詰まった
「ハルミ」
「っ…」
背中から覆い被さるように竜之助が纏っていた白い布と一緒にハルミを抱き締めた
途端ハルミが竜之助にしがみついて声を上げて泣き出す
両親と姉夫婦が事故に合い幼い操だけが助かった
葬式の間気丈にも涙を見せなかったハルミ
「…俺がいる」
竜之助が耳元で囁いた
「ハルミ」
涙でぐしゃぐしゃになったハルミの顔を竜之助が両手で優しく包むと口付ける
無抵抗なハルミがゆっくりと目を閉じた
「家族になろう」
金色の目に映ったハルミが頷く
「ごめんくださーい」
玄関から声がした
「はー…」
はっとしてハルミが返事をしようとすると口づけで口を塞がれた
チリーン
作品名:【無幻真天楼第十四回・参】*あいのうた* 作家名:島原あゆむ