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かいかた・まさし
かいかた・まさし
novelistID. 37654
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森の命

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「お父さん、私や会社のことはどうでもいいわ。正直なことを言って。私は、お父さんがどうなろうと愛してる。娘として誇りに思う。だから、正直にすべてを話して。私は、犯罪者の娘になってもかまわない。嘘をつかず、自分の罪を素直に認められる立派な人を父親に持ちたいの」
 由美子は、目に涙を浮かべていた。清太郎は、じっと由美子を見つめる。
「アケチさん」
と思わぬ声が聞こえた。
 すると、そばにマラティール首相がいた。数人のボディガードに囲まれ、由美子たちを見つめ立っていた。
「マラティールさん、いや大統領」
と清太郎は、答えた。
 マラティール大統領は、そばに立っていた検察官に話しかけた。スワレシア語で会話を始めた。

 十分後、由美子たち三人とマラティール氏は応接室にいた。大統領は、清太郎の取り調べが始まる前に、少しだけでも話しが出来るよう取り計らってくれたのである。
「私は、いずれ国会での証人喚問も受けることになります。大統領選には出馬せず続投もしないつもりです」
 大統領は、清太郎に真剣な眼差しを向けながら話した。
「しかし、言っておきます。私は、何も知らなかったのです。ライが勝手にやったことなのです。こんなことを言えば、政治家お得意の言い逃れのようにしか聞こえませんが、事実、私は何も知らなかったのです。私は、むしろ裏切られたのです。その上、一番信頼していた男に殺されそうにさえなった。そして、もう一人友人であるあなたにまで裏切られた」
 清太郎は驚き、こう返した。
「マラティールさん、ここではっきりと事実を申し上げておきましょう。私は、あなたを裏切ってなどいない。あなたと同様、私も部下に裏切られたのです。私は何も知らなかったのです」
「お父さん!」
 由美子は、父の発言に驚いた。
「由美子も健次くんも聞いてくれ」
 清太郎は、由美子と健次をしっかりと見つめて言った。そして、マラティール氏の方にまた目を向け話し続けた。
「実際、私は今の事業を大きくするために過去に何度か不正をやってきました。しかし、今回は、そんなことをやってはいません。だが、社長として会社の者がやったことは、私が知り得なかったとはいえ、私の責任です。その責任を負うための裁きを受ける覚悟は出来ています。だが、決してあなたを裏切るつもりなどありませんでした。そのことは、分かってください」
「本当なのですか、明智さん」
「嘘など言っていません」
 清太郎は、真剣な表情だった。由美子は、その父の表情を読み取り、それが真実であることを確信した。父は、こんな状況で嘘をつく男ではないことを由美子は、長年の親子としての付き合いから一番よく知っていた。
「マラティールさん、私は、あなたの大統領の立場を考慮した上で、今、お頼みしたいことがあるのです。私の立場から頼むのは大変厚かましいことなのですが」
 清太郎の発言に、何を言い出すのかと皆、驚いた。
「今回の発電所建設計画、私の部下の犯した不正により、当然、我が社は、この事業から撤退せざる得ません。それは当然の報いです。しかし、この事業自体は、決して中止されることはないでしょう。東南アジア規模のダム建設は、あなたにとっては長年の夢だった。この国の産業発展のためには、なくてはならないものでしょう。しかし、そのために苦しむ人々がいるということも事実です。近くに住む農村の方々、そして、森の中に住む先住民の方々です。私は、今まで事業家として自分の企業の利益を増やしていくことばかり考えて生きていました。会社が大きくなればそれでいい。そのために住むところを追い出されたり、生活環境を悪くさせられる人々のことなど全く考えていませんでした。それを、今考えさせられているのです。驚くでしょうが、私はほんの十日前までは、末期癌で命を落とすところだった。ところが、あの森に住む人々が、与えてくれた薬草でこの通りあっという間に元の体に戻ることができたのです。死ぬ寸前の私の体を魔法のように治してくれたのです。あの森とそこに住む人たちがいなければ、私は死んでいたのです。それなのに、私は、そんな森とそこの人々を破滅に導かせることをしようとしていたのです」
「そんなバカな?」
 マラティールは、信じられないといわんばかりの表情だった。健次が、着ていたジャケットのポケットから草の入ったビニール袋を取り出して言った。
「大統領、信じてください。ここにその草があります。この草には、癌細胞を殺し、また癌細胞で弱った内臓の組織を修復させる成分が含まれています。それだけではありません。様々な解毒作用を持ち、コブラの毒さえも解毒できます。現に僕は、コブラに噛まれながらもこの薬草のおかげで助かりました。まだ、研究は始まったばかりです。その他どんな難病でも治せる可能性を秘めています。この草は、あの森に生えています。なくしてしまうと人類にとっての貴重な財産を失うことになります」
 清太郎が合わせるように続けた。
「お願いします。ダム建設計画のこと何とか考えていただけませんでしょうか。私は、そのためなら何でもいたします。また、明智物産で出来ることなら何でもいたします。お願いします」
 清太郎は、さっとひざまずき、土下座をした。
「明智さん、突然何をなさるんですか。私は、混乱しています」
 大統領の表情は、まさに青ざめ、心の混乱を表していた。由実子も、その父の姿に混乱した。そして、マラティール氏に向かって言った。
「大統領、娘の私からもお願いいたします。何も巨大なダムを作る必要はないのじゃないですか。発電なら、風力や太陽熱など自然を破壊しない手段もあります。そんな技術を提供出来ます。よく考えてください。熱帯雨林は、この国にとっても、地球にとっても、かけがえのない財産です」
 大統領は、顔をそっと背けた。清太郎は土下座したままだ。しばらく沈黙が続いた。大統領は、皆に背中を向け、窓の外をじっと眺める。急に沈黙が流れ陰鬱な雰囲気となった。由美子は、怒らせたのではと、不安になった。
 しばらくして、大統領は由美子たちの方を振り向いた。そして、話し始めた。 
作品名:森の命 作家名:かいかた・まさし