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かいかた・まさし
かいかた・まさし
novelistID. 37654
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森の命

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「何だと、無茶苦茶なこと言いやがって! 俺は由美子をたぶらかしてなどいない。森を守りたいのは、由美子自身が決めたことだ。ハワイで環境学を学んで、熱帯雨林の大切さをよく知ってるんだ。だから俺と一緒にいるんだ。それのどこが悪い!」
「悪いが健次くん、由美子さんは僕と婚約してるんだ。君とではない。彼女は、明智物産の跡継ぎなんだ。僕のような男の支えを必要としている」
「そんなバカな。何言ってやがんだ。由美子がおまえのような男と」
「これは決まったことなんだよ」
「ふん、そうか」
 健次は、本気にしてなかった。どうせ、英明が勝手に決めたことと確信しているからだ。由美子が、英明を嫌っていること、会社を継ぎたくないことなど、恋人である自分が一番よく知っている。
「由美子さんに会いたい。今どこにいる。研究所の中か?」
 英明が健次をにらみながらきく。
「日本へ帰ったよ。親父さんが倒れたんだ」
「何、社長が?」
 英明が驚きの表情を見せた。
「知らなかったのか? あんた婚約者じゃなかったのか、そんな大事なことを由美子が婚約者のあんたに知らせなかったとは驚きだな」
 沈黙が流れた。英明が黙って突っ立っている。健次は、何となく勝利した気分になった。くだらないことだが、さっきまでのかっとした気分が急に吹っ飛んだ。
 さてと、英明など無視して食事に手を付けるか、と思った瞬間、堀井が走って自分のところに向かってくるのが見えた。
「健次、やったぞ。ついに発見したぞ。あの草にガン細胞を破壊する効果があることが分かったんだ。実験の結果、間違いなくガン細胞はあの草から抽出した成分によって消滅している。この発見はノーベル賞ものだぞ」
 健次は、立ち上がった。
「本当か? 間違いないんだな」
「当たり前さ。すぐに実験室に来て確かめてみろよ」
「分かった、すぐ行く!」
 健次は、ぼおっと突っ立っている英明を無視して横切り、研究所に向かった。
 健次は、思った。これで、英明どもの企みは潰される。

 英明は、ホテルに戻り野村院長に電話を入れ、事情を確かめた。  
 しかし、今問題なのは、社長が倒れた原因である癌だ。とても危険な状態であと一ヵ月もてば幸いという。今すぐ死亡ということになれば、ちょっと面倒なことになる。まだ、由美子と結婚していないのだ。あの女と結婚しなければ、明智物産乗っ取りは不可能だ。あの女の夫となり、明智物産の正式な後継者と明智清太郎が生きている内に認めさせるのだ。
 英明は思った。ダム建設をさっそく開始するのだ。あの森に手を加えるのだ。伐採を始めなければ! そのことで由美子に結婚を迫らせるのだ。
 開始予定日までには、あと二週間ある、しかし、こんな事態だ。予定を早めよう。これであの女にプレッシャーを与えることになる。
 あともう一つあった。あの健次という男だ。あの男が邪魔だ! あの男がいるかぎり、由美子は自分と結婚したがらない。健次を直ちに消すのだ。そして、あの男のやっている研究にも何だかの手を加えなければ。何でも癌細胞を殺す薬草を見つけただと、信じ難い話だが、ほっておけることではない。一度殺すチャンスを逃した悔しさも拭いたい。
 英明は、電話の受話器を取った。プッシュホンを押した。この手の問題を解決する現地の組織につながる番号である。
[あんたか。もう一度、あの男をやってくれ。今度は失敗するなよ。手のこんだ真似は必要ない。思いっ切りやってくれればいい」

東京
 由美子は夕食を清太郎のいる特別病室に運んでいた。由美子は、ある決意を胸に秘めていた。もうここまで来たんだ、包み隠さず、何もかもを話そう。父はそれを嫌がるかもしれない。だが、このままでいるのは辛過ぎる。
 由美子は、病室に入った。
「お父さん、夕食よ」
 清太郎は、目を開け体を起こした。由美子は、父のベッドに備え付けてあったテーブルに食事を置いた。
「ありがとう、由美子」
 清太郎は、昨日に比べて、さらにやつれている。箸を取り、黙々と皿の上の食物を取り口に運んだ。由美子は、その姿をじっと見守るように眺めた。
 清太郎は、十分ほどして箸を置いた。出された食べ物の半分も食べてない。
 由美子は、食事をすぐに片付けた。清太郎は、再び目をつぶろうとする。
「お父さん、とても大事な話があるの」
と由美子が言った。
「後にしてくれ、今疲れているんだ」
 清太郎は嫌そうに言った。
「野村先生から聞いたわ。末期癌なんでしょ」          
 清太郎の目がぱちっと開いた。
「どういうつもりだ、そんなこと聞き出して」
と怒鳴るように言った。
「どういうつもりもないわ。わたしはお父さんの娘よ。お父さんのことがいつでも心配なのよ」
 清太郎は、ぐっと押し黙った。父と娘は 、真剣に見つめ合い、沈黙が流れた。 
「全くしょうがないな、おまえは・・」
 清太郎が、溜め息をつきながら言った。
「なら、これでよく分かっただろう。わしがおまえに、急いで我が社の一員となって頑張ってもらいたいことが。将来的には、おまえに明智物産を継いでもらいたい。その助けとして、英明くんとの結婚を勧めていることも。もう、わしの命も長くない。死ねば会社はおまえのものになる。今はまだ、おまえがあの会社を運営するのは無理だ。だから、英明くんの助けを借りて、あの会社を守ってもらいたいんだ。今までおまえのためを思ってあの会社を大きくしてきた。おまえにあの会社をいずれ譲るつもりでだ」
 由美子は、言った。
「お父さんは、私のこと何にも分かっていない」

スワレシア、クアランコク
 研究室の中で、健次は、堀田と一緒にいた 今は、コンピューター画面に目を通している。あの草の成分の分析結果を見ていた。驚くことに、コンピューターでさえ解析不能な未知の成分が数多く含まれていることが分かった。これまでの研究生活の中でこれほどまでに興奮したことはない。
 時計は、午前十二時を指していた。健次は、二日間、飲まず食わずの上、十分な睡眠も取ってない。だが、それが全然苦痛ではないのだ。目の前の新発見にしがみつかずにはいられず、研究室を離れられないのだ。体に疲れなど感じない。むしろ時間が経つごとに、気分が高揚してくるのを感じがする。
「健次、張り切る気分も分かるが、少しは休みを取れよ」
「何言ってんだ。一刻の猶予もないんだぜ。この草は、癌で苦しむ何千万という患者の命を救える。それにあの森をもだ。休んでなんかいられるか。疲れているのなら、おまえは帰っていい。俺一人でここにいる」
 今、この研究室には、堀田と健次の二人しかいない。そして、この研究所の建物の中で、こんな夜遅くまで残っている学者は、この二人だけである。
 堀田は疲れていた。自分は健次ほど体力のある方じゃないと分かっていた。
「じゃ、俺は帰るぜ」
と堀田が言った瞬間、ガッシャーンという窓ガラスの割れる大きな音がした。
 はっ、と驚いた瞬間、部屋の中は火に包まれた。火炎瓶が投げ込またのだ。


「逃げるぞ!」
と堀田は叫んだ。
 健次は、立ち去ろうとしたが、
「待ってくれ、大事なサンプルとデータが!」 コンピューターのデータをまだ保存していなかった。
作品名:森の命 作家名:かいかた・まさし