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かいかた・まさし
かいかた・まさし
novelistID. 37654
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森の命

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 数人のボロボロの服を着た子供達が、由美子と健次が外国人だと分かると集まってきた。子供達は、にこにこしながら、手の平を広げ、お金をせがんでくる。
 二人は、どうしようか迷った。子供達の無邪気な顔を見てると、あげなければと思う。だが、そんなことをするのは、同時に後ろめたいことでもある。彼らを、乞食として扱うことになるからだ。同じ人間なのに、人間としての尊厳を無視しているように思えてならなかった。だが、考えてみれば、彼らにとって今大事なのは、そんな尊厳などというものよりも、今日一日の生活をどう守っていくかということだ。
 どうすればいいかと悩みながら、由美子は、財布を取り出し、何枚かのお札を取り出した。すぐに健次もつられて、財布を取り出すことにした。
 由美子が、お札をやると一人の男の子は、さっとそれを手に取り、何も言わず立ち去った。
「あ、こら!」
 健次が言った。
「どうしたの? 」
と由美子は言うと。
「あのガキ、俺の財布を丸ごと盗っていきやがった。何てことするんだ!」
 健次は、走って追いかけようとした。由美子が、さっと彼の手首を押さえた。
「健次、やめて、ほっておきましょう」
「何言ってんだ!」
 健次は、かっとなって言った。
「なくなった分のお金は、わたしがあげるから。ね、お願い」
健次は、由美子の悲しそうな顔を見ると、ぽっと溜め息をつき言った。
「ちぇ、しょうがねえな」


 次の日の朝、由美子と健次は、スイートルームのベッドの上で目を覚ました。
 昨日は、実にゆったりとした一日だった。だから、全然疲れを感じない気持ちのいい朝を迎えている。窓からこもれる朝陽を浴びながら、起き上がり、由美子は背筋を伸ばした。
 健次は、さっそくバスルームでシャワーを浴びている。由美子も一緒にバスルームに入った。
 
 シャワーと朝食の後、二人は、ロビー階へ降りた。さっそく、新たなる戦争を始める決意をした。これから、クアランコク大学の研究所へ向かう。
 エレベーターを降りると、ロビーを抜け玄関口に向かう。そして、回転ドアを抜けるとタクシーが並んでいた。その一台に乗ろうとする。
 そこへ、
「由美子!」
 聞き覚えのある声だ、と由美子は思った。声の方へ振り向くと、そこに自分の方へ向かって走ってくる若い女性の姿が見えた。
「真理子!」
 由美子は、感激した。心配で早く再会したいと思っていた親友が目の前にいるのである。思わず真理子に抱きついた。
「真理子、どうしてここに?」
「今朝、着いたばっかりなのよ。取材に来たの」
「そう、じゃあ、記者のままでいられたのね。よかったわ」
「何を言っているよ。私が今勤めているのは、雑誌社よ。環境問題に熱心で国際的な雑誌だから、やりがいがあると思って、思い切って転職したの。それでダム建設にともなう森林破壊の問題を取り上げにね。今度は、もう大丈夫よ。編集部が私に是非ともと取材で来たのだから」
「そう、じゃあ、とにかく落ち着いたのね」
「もちろんよ、何もかも順調よ。あなたが心配することなんてなにもないわ」
 真理子は、元気いっぱいの笑顔を作り言った。
「おい、由美子、突然何なんだ? この人は誰だ?」
と健次は、ことの成り行きに混乱していた。
「ああ、健次、こちらはわたしの高校時代からの大親友、真理子よ」
 真理子は、健次を見つめ言った。
「初めまして、大塚真理子です。お会いできて光栄です」
「いや、こちらこそ」
と健次は、何となく面食らった調子で言った。真理子が興味深そうに自分を見つめるからだ。
「あ、それから真理子、こちらは・・」
「あーら、いちいち紹介されなくても分かるわよ。彼氏でしょ。なかなかハンサムじゃない、うらやましい」
「あ、ははは」
とその場で三人は、大笑いした。
 由美子は、健次を見つめ言った。
「健次、先に行ってて。真理子とせっかく会えたの。少し話しがしたいの。後で、わたしも研究所に向かうから」
 すると、真理子が、
「あら、由美子、そんなことまで」
と言った。
 健次が、その場をとり繕うように言った。
「そうか、俺は先に行っている。外国でせっかく会えたんだからな。ゆっくりしていけよ。だけど、終わりしだい、すぐに研究所に来いよ」 
 そう言うと、健次はタクシーに乗り込んだ。
「本当にいいの、大事な彼氏と一緒に行かないで?」
と真理子が言うと、
「いいのよ。さっそく、いろいろと聞かせて」
と由美子は言った。

 二人は、スイートルームに入った。
 プルルル、プルルル、と電話の鳴る音がする。由美子は受話器を取った。
「ハロー」
と言った。すると、
「お嬢様、お嬢様ですね?」
と聞き覚えのある家政婦の声が聞こえた。何だか慌てたような声だ。なぜ、わざわざ日本からここまで電話を? と不思議に思った。
「あら、ばあや、どうしたの?」
「大変なんです、お嬢様。旦那様が!」
「お父さんが、どうしたの? 」
 由美子は、急に不安になった。
「旦那様が、お倒れ、になって、息さえもしてないんです。たった今、救急車で運ばれ、まして・・」
 ばあやの声は、その事態の緊迫度を如実に表すかのようにぶるぶると震えていた。いつもは落ち着いているばあやのこんな口調を聞くのは初めてだ。

 

 それからほぼ六時間後、由美子は、成田空港にいた。

 電話を受けた後、すぐさま空港に向かったのだった。荷物など準備せずタクシーに乗り込みクアランコク国際空港へ、そして、何とか東京行きの便に間に合った。
 日本へ向かう飛行機の中で、父のことばかり考えていた。あの父が、見るに頑丈そうなあの父が、倒れたなんて信じられない。いったいどういうことだったのか。数日前、帰国したとき、咳き込んでいた。ずいぶん前から、とんでもない病気を患っていたのに違いない。

 到着ターミナルを出てタクシーに飛び乗った。タクシーは、清太郎のいる野村総合病院に向かう。
 一時間後、タクシーは、都心にある野村総合病院に着いた。
 ここには、この病院の院長であり、父の主治医である野村医師がいる。タクシーから飛び出た。受け付けに行き、清太郎の病室をきいた。
 エレベーターに飛び乗り、病室へ向かった。エレベーターがその階に着くと、由美子は走った。
 本当は、体ががたがたに疲れていることを知っている。五時間以上に及ぶ飛行時間に空港についてからは走ることばかりだ。身も心も焦りで一杯だった。
 病室に着いた。さっと扉を開けた。この病院の最上階にある広い特別室である。
「お父さん!」
 由美子は、大声で叫んだ。 
 中には、主治医の野村とベッドに横たわる父、清太郎がいた。
「由美子、どうしたんだ・・」
と清太郎が息の詰まったような声で言った。清太郎は、毛布から首を出した状態だった。顔色はとても青白い。
「お父さん、わたし心配で、倒れたって聞いたものだから」
 由美子は、涙を流した。
「何を大袈裟な。単なる疲れが溜まって起こった失神だ」
 清太郎は、言った。
「でも、こんなに顔色が悪くて」
 由美子は、父の顔に近付いた。
「由美子さん、大丈夫です。主治医の私が保障します。ただの貧血です。一週間もすれば回復なさいますよ」
作品名:森の命 作家名:かいかた・まさし