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かいかた・まさし
かいかた・まさし
novelistID. 37654
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森の命

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 由美子は、受話器を切った。名刺の裏にはボールペンで真理子の住むアパートの住所と携帯電話番号が書かれていた。
 由美子は、電話をかけ直した。
 耳元からプルルと信号音が聞こえてきた。何度も続くが、誰も取らない。しばらくして、留守応答のメッセージが聞こえた。電波の届かないところにいるのだろうか。それとも、真理子の身に何かあったのでは? 恐ろしい胸騒ぎがした。とてつもないことが暗躍しているような気がした。たった一枚の新聞紙面が、由美子にとんでもないことを訴えかけているような気がしてならない。
 由美子は、とにかく帰国することにした。急いで航空会社に電話を入れ、その日の午後の成田行きの便を予約した。

 クアランコク国際空港から五時間後、ジャンボジェット機は成田に着いた。到着ロビーを出ると、由美子は、タクシーを拾い運転手に真理子の住所を告げた。 
 空港から一時間後、品川にある真理子の住むマンションに着いた。階段を駆け上り真理子の部屋に行く。由美子は、インターホンを押した。
「誰ですか?」
 真理子の声だ。
「わたしよ。由美子よ。真理子、スワレシアから戻ってきたの。あなたにききたいことがあって・・」
 とっさにドアが開いた。
「由美子、帰ってきたの。ちょうどいいわ。私もあなたにききたいことがあるの」
 真理子はこわばった顔をし由美子をにらんでいる。そして酒臭かった。
 部屋の中にはウィスキーの瓶が転がっていた。
「ずっと飲んでたのね、真理子」
「そうよ、飲まずにはいられなかったわ!」
「一体どうしちゃったの? 今朝の新聞をクアランコクで読んだわ。それで急いで飛んできたの。いったいどういのことなの、この記事は!」
 由美子は、その新聞を手に持っていた。
「それは、こっちがききたいぐらいだわ、由美子」
 真理子が、ぐっとにらみつける。こんな真理子を見たのは初めてだ。
「どういうことなの? おしえてよ」
「わたしの記事は、上からの命令で突然発行中止。きっとあなたの会社の評判を悪くするようなことは書くなって圧力がかかったのよ。自分たちにとって都合の悪い記事だもの。わたし、飛行機の中で記事を書き上げたのよ。日本について編集長に出して、朝刊紙面に出そうってことになったの。だけど、今朝になってみるとこのあり様、会社に行くと、私に転属命令が来たの。何でも営業をやれって。私に記者を辞めて、広告を募る仕事をしろっていうのよ。これもすべて上からの命令なんだって!」
「そんな!」
 由美子は、驚きのあまり胸が破裂しそうだった。
「あなたね。あなたがおしえたのね。あなたしかわたしがあの記事を書くこと知らなかったもの!」
 真理子の声には憎しみが込められていた。
「何ってこと言うの、真理子。私がそんなことするとでも思って。もしわたしが会社のために記事を差し止めるつもりだったら、最初からあなたにあんなことおしえる?」
 真理子の表情が、さっと変わった。
「そうね、そうだったわね。私、お酒飲み過ぎて取り乱してた。御免なさい。大親友を疑うなんてどうかしてたわ。でも、突然のことで頭が混乱して」
 真理子はすまなそうな表情になった。
「でも、いったい誰が?」
 由美子は、考えた。
 すると、真理子は言った。
「由美子、考えてみれば、大日本新聞はあなたの会社、明智物産を最大の広告主としてるわ。大事なスポンサーなのよ。きっと自主的にあの記事を取り止めたんだわ。私って馬鹿だった。大学でマスコミ学を勉強していたとき、習ったことだわ。マスメディアがいくら、社会の公器といわれていても完全な中立を保てないってこと。広告やコマーシャルなどで、運営資金を利益優先主義の企業からもらっているのだから、所詮は同じ利益主義者の仲間にすぎないんだってこと。正義の戦死を気取っていた自分が甘かったんだわ」
 真理子は、しょんぼりとして言った。由美子は、罪悪感にさいなまれた。自分のせいのような気がする。由美子が手を下したわけではないが、由美子の頼んだことが裏目に出て親友の真理子を傷つけることになってしまったのだ。

 真理子は、今は一人にしてほしいと告げた。由美子も、それが真理子のためだと思いマンションを出ていった。

 由美子は、外に出て歩きながら考えた。いったい誰が新聞社に指図したのだと。いや、真理子の言う通り、新聞社の方から真理子の記事を読んで自主的に差し止めたに違いないのだ。
 もし、明智物産の誰かが、大日本新聞に圧力を加えたとなると、誰かが由美子と真理子の会話を聞いていたことになる。真理子の記事を編集長に見せて発行されるまでの間に。明智物産の誰かが次の日に出される記事の内容など知り得ることなんてありえないのだ。あれは二人だけでホテルのスイートルームの一室でした会話なのだ。誰も聞いてはいなかったはずだ。
 由美子は、通りにタクシーが走っているのを見つけた。手を挙げ止めさせた。中に乗り込んで運転手に告げた。
「世田谷区成城にお願いします」
 それから三十分程して、由美子は我が家に着いた。


 インターホンを押すと、しばらくして家政婦のばあやが玄関から出てきた。
「お嬢様、お帰りなさいませ」
 ばあやが、そう言うと、由美子は、
「お父さんは帰ってるかしら」
とさっそくきいた。
「旦那様は、書斎の方におられますが・・」
 由美子は、駆け足で廊下を走り書斎へ向かった。書斎のドアを開けた。
 父、清太郎が、机の上で書類を読んでいる最中だった。
「何だ、由美子じゃないか!」
 清太郎は、驚いた顔で由美子を見る。
 由美子は、手に持っていた新聞紙を書斎の机の上に投げつけた。
「これを読んで、お父さん」
 由美子は、清太郎をにらみつけ言った。
「何だ、一体?」
「とにかく、読んで! お父さん」
 新聞紙は四面のところが開いた状態になっている。清太郎は、圧倒され訳も分からず記事を読み始めた。      
「それが、どうした? クアランコクから、こんな記事をわしに読ませるため大事な仕事をほっぽり出して帰って来たのか!」
 清太郎は、かっとなって言った。
「わたしの友達の新聞記者が左遷されたわ。明智物産がダムを造るため、熱帯雨林を破壊して周りの村人や森に住む原住民の人達を苦しめているという事実を新聞の記事に載せようとしたためにね。代わりにこんなインチキな記事を出すなんて」
「わしは何も知らんぞ」
 清太郎は、キツネにつままれたような顔で由美子を見る。
「お父さんが知らなくたって、同じことよ。明智物産が新聞社に圧力かけてやめさせたんでしょ」
 由美子は、大声で叫んだ。とにかく、由美子は腹が立って仕方なかった。何であろうと父を責めたかった。たとえ記事の差し押えが、新聞社の自主的なものであったとしても、明智物産社長である父にも責任の一端はある。つまり大日本新聞は、清太郎のことを気遣い社会正義を投げ売ることをしたのだ。そのうえ、親友を犠牲者にさせてしまった。
「だからなんだって言うんだ! おまえは会社に不利益になるような情報を新聞記者におしえたのか。よくもそんなことできたな」
 清太郎も強気で言い返す。
作品名:森の命 作家名:かいかた・まさし