二人の王女(2)
しかし、旧校舎のあらゆる入り口の鍵はすべて閉じられ、立ち入り禁止を促す看板が立てられていて、なかなか入る勇気が持てなかった。誘惑に負け、一目見るだけでも…と、図書室を覗きに行ったのがつい一週間前のこと、そのときに図書室の窓の鍵が一つだけ、緩んでいることに気がついたのだ。見つかっては退学問題になるため、人気がいない日曜日を選んで出直すことを決め、ようやく潜入に成功したのである。
目の前にした図書室は、思っていた以上に素晴らしいものだった。
味気ない、アルミ式の本棚が並べられた新校舎の図書室とは違い、古い木造の本棚が、ずっしりと自身の居るべき場所をわきまえているように、重厚に並んでいる。点けることはできないが、花の形をを象ったランプが壁に等間隔に並んでおり、古き良き時代を感じさせた。
あすかは、早速本棚を順番に見て回り始めた。新校舎の図書室にはない、薄汚れた古い本がたくさん並んでいる。特に、新校舎では見られない丁重な童話の本が多く、それがあすかをより喜ばせた。
「あすかって、童話の中の住人みたいだよね」
いつか、一番の友人である麻生静香にそう云われたことがあった。
「童話の読み過ぎなのかわからないけど、なんかふわふわしてるっていうか、肌の色も白いし、ちょっと目も紫がかったような色してるし、童話に出てきそうな感じ」
「それって、お姫様みたいってこと?」
おどけた口調であすかが聞くと、「むしろ意地悪い魔女なんじゃない?」と間髪を入れず一蹴された。
あすかは、フランスの血が入った、いわゆるクォーターだった。祖母が、フランス人なのだ。そのためか、色白で瞳の色が少し普通と違うのだ。だが、両親たちは「紫がかっているのは珍しい」と、物珍しそうにいつもあすかの瞳を見ていた。フランス人のハーフである母は、祖母と同じ青い瞳だった。
本当に、童話の中の住人になれたら、素敵なんだけどな…
いつもそんなことを思いながら、現実ではあり得ない夢の世界に身を浸す。そんな時間が幸せだった。
旧校舎の図書室には、そんなあすかの欲求を満たす書物が、多く残されていた。気になった本を手にとってみては、ぱらぱらとページをめくってみる。気に入ったものは、すぐにわかるように本を横にしておいた。