春の風が吹いて
その日の夕方、増田陽子からの携帯が鳴った。
「先輩、お久しぶり。聞いたよ。美山さんから。。。偶然だね」
久しぶりの明るい陽子からの声だった。
「おう、久しぶり元気そうじゃないか。どう、うまくやってるそこは」
「まだ1年よ。渡り鳥みたいなものだから・・・先輩は?」
「ああ、今は、一人で仕事やってる」
「昔から先輩、一匹狼みたいなとこがあったけど独立したんだ」
「まあな。独立といっても、社長兼平社員だ。フリーでやってる」
「美山さん、先輩のこと男らしい人って言ってたよ」
「そうか。うれしいな。あの美山さんも素敵な人だな。結婚してるの彼女?」
「バツイチ独身よ。わずか3ヶ月で離婚したんだって。先輩誘ってみる?」
「えっ、ほんとか?うれしいな」
「写真を拾ってくれたお礼よ。今度セッティングするね」
「おう、サンキュー。楽しみだな」
「じゃ、また連絡するね」
陽子の電話はそこで切れた。
「ふ~ん、バツイチ独身か・・・」僕は興味が湧いた。
4日後に陽子の電話はかかってきた。
「こんにちは先輩。急だけど今夜あいてる?」
「ああ、大丈夫だけど」
「7時にシェラトンのバーラウンジに来ない?目当ての美山さん、いるわよ」
「行ってもいいのか?」
「来たいんでしょ」
「ああ」
「そこは先輩のおごりだからね。たくさん飲んじゃうから」
「おいおい、そんなに儲かってないよ」
「冗談よ。1杯は私達からのおごり。写真のお礼よ」
「二人だけでいるの?」
「そう、先輩含めて3人。いいでしょ」
「うれしいな。ありがとう陽子」
「どういたしまして、いつかのお礼」
「いつかの?何かしたっけ?」
「先輩優しいから、覚えてないのよ。私は覚えてるけど」
「そうなんだ・・・」
「これで借りは返したからね・・・」
「訳がわからないけど、まあ、いいや。サンキュー」
「じゃ7時にね」
「ああ行くから」
陽子の明るい声が電話を切ると消えた。