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海野ごはん
海野ごはん
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春の風が吹いて

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春の風が吹いて





新しいカフェが駅前のビジネス街の中にオープンした。
木の香りがするナチュラルな感じでいいデザインだ。
窓際のガラスに沿ったカウンターに座り、僕はぼんやりコーヒーを飲んで楽しんでいた。
春風が強く、街路樹が大きく揺れている。
目の前のガラスの向こうを歩いていたきれいな女性が、男性にぶつかり荷物を落としたのが見えた。
よくある光景だが、落とした拍子に何枚かの紙切れが風に飛ばされたようだ。
二人はあわてて荷物を拾っていたが、風に飛ばされた1枚の紙には気づいてはなかった。
僕は飛ばされた紙の1枚の行方を目で追った。
道路向こうの街路樹の中に落ちて挟まったようだ。

二人は頭を下げてお互いに謝っていた。
どうやら、飛ばされたあの紙のことは気がつかないみたいだ。
その彼女が目の前を通り過ぎようとした時、僕は急いで立ち上がり、
店の外に出て彼女を呼び止めた。
「もう1枚、何か飛びましたよ。俺、そこで見てたんです」
「あら、すいません」
「俺、取って来ますから待っててください」
「ほんとにすいません」
僕は道路を渡り風に飛ばされた紙を拾いに行った。
飛ばされた紙は予想通り街路樹の中にあった。


その紙は写真だった。
彼女のほうを振り返り、ありましたよという形で手を振った。
道路を渡ろうとすると車が長い間途切れないで続いている。
僕はその写真を見た。
「えっ、この女の子は昔の同僚だった女の子だ」僕はすぐわかった。
もうずいぶん会ってないけど間違いない。
今、道路向こうで待ってる彼女はどうやら友達らしい。二人の笑顔が写真の中にあった。
僕は車の流れがようやく途切れて彼女の元に戻った。
「ほんとにありがとうございます」
「あの~、すいません。ちょっと写真見ちゃったんですけど、この彼女、増田さんですよね」
「えっ、ハイ・・・」彼女は驚いた顔をしていた。
「実は昔、同僚だったんです、彼女と。お友達ですか?」
「あっ、はい。陽子さんの知り合いですか?」
「そうそう、増田陽子さん。俺の隣のデスクだったんです。今は、ご一緒ですか?」
「ええ、今はそこのビルの6階。一緒に働いています」
「いや~、偶然だな~。後で覗きに行こうかな?」
「お電話させましょうか?名詞か何か、あります?」

僕は名刺を1枚彼女に渡した。
「あの、お名前よろしいですか?」僕はきれいな彼女に聞いた。
「私、美山といいます」
それから、彼女は写真の礼を言うと、先ほど指差したビルの方向に歩き出した。
黒いスーツの後姿がとても様になっていた。歩き方が颯爽としていた。
残り香が漂うようないい女だと僕は思った。ビルの中に入るまで見つめ続けた。

カフェに戻ると僕のコーヒーカップはすでに片付けられていた。
辺りを見回しても誰も僕に関心がなさそうだ。
僕は仕方なく店の外に出て街を歩いた。

作品名:春の風が吹いて 作家名:海野ごはん