19のあの頃
しばらくして
さえと二人連れ立って産婦人科に行った。お金は友人や両親に嘘をついて融通してもらった。
待合室で不安な顔のさえは僕の手を握っていた。
周りではおなかの大きな女性が、にこやかな顔をして話をしている。
その中で深刻な顔をした若い僕らがいることは、
誰の目から見ても中絶をしに来た、間違いを犯した若い二人だった。
さえはそんな空気を察したのか顔をあげようとしなかった。
名前を呼ばれ診察室に一緒に行こうとした僕を看護婦さんが止める。
さえは僕に振り返り胸元で小さくバイバイをした。泣きそうな顔はまだ子供だった。
僕は待合室がいたたまれず病院の外で待った。
3時間ぐらい経ったのだろうか、さえは来た時と同じように一人で歩いて病院を出てきた。
わざわざ隣町の病院に来たので、帰りは二人して沈黙のままバスに揺られて帰った。
痛いのだろうか、時おりさえはおなかを押さえた。
大丈夫かと触ろうとする僕の手を跳ね除ける。
「さえ・・・」何か言おうとするが言葉が出てこない。自分でも情けなかった。
その日の夜、さえは黙りこくっていた。
結局何も言わず、その夜を過ごした。
次の日、さえは実家に帰った。ちゃんと休んで来ると言って僕のアパートから出て行った。
それから
さえは学校を辞めて、この町に戻ることもなかった。
19の夏は一人きりの夏だった。