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海野ごはん
海野ごはん
novelistID. 29750
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19のあの頃

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「純君、妊娠したみたい・・・」
僕は耳を疑った。大学の構内の食堂だった。
二人きりでテーブルを挟み、美術史の講義が終わったばかりだった。
思わず飲んでいたコーヒーを落としそうになった。
さえは下を向いていた。
色白のさえのブラウスの中の乳房のふくらみを思い出した。
あの日の夜、あの出来事が脳裏に浮かんだ。

僕らは二年生になると半同棲状態になった。
6畳のアパートはキッチンとベッドと小さなテーブルしかない部屋だった。
僕とさえは、そこで何回もエッチをしたのだが
その夜はつけなかった。さえは嫌がったが僕はそのまましてしまった・・・。

5月の風が開け放した食堂の窓から吹いてくるのだが
さわやかさとは反対に、僕は一気にどうしようという想いになった。
いつもは明るいさえも、今日は暗い顔をしていた。
「赤ちゃん、いるの? おなかの中に?」
精一杯の確認だった。
「いるよ。もうすぐ3ヶ月だって・・・」

何かを言おうとすれば「堕ろす」という言葉が浮かんでくる。
卑怯な奴と思われたくなかったし、かといって「産めよ」なんて言い出せないし考えもなかった。
どんな言葉を期待してるのだろうか・・・
「さえ・・どうしたい?」
僕は答えを相手に言わせる卑怯な男だった。
さえの方から言ってもらえると少しは罪悪感が薄れそうだった。

「堕ろすしかないんじゃないの・・・」
ぶっきらぼうに言うさえは、今にも泣き出しそうだった。
言ってもらえた安堵感で表情が変わった僕を見逃さなかった、さえは
「産んでほしいと言って」と続けて言い出した。
「そんな・・無理だよ・・」
「私、学校辞めて産もうかな」意地悪のようにさえは冷たい言葉で言い出した。
どうにもならない状況だということは二人ともわかっていた。
親元を離れ、一人前にわかった口をきいて、何かあれば
「もう、大人なんだからかまわないでくれよ」が親に対する口癖だった。
そんな大人みたいな一人前の口をきいたところで、所詮学生、19歳の子供だった。
「親はなんて言うかなぁ~」頼りない僕の言葉。
「堕ろせって言うに決まってるじゃない」
僕だってわかっていた。成人前の出産、未成年の母親、何より結婚する前に子供が出来るのは
昭和の時代には恥ずかしいことだった。

作品名:19のあの頃 作家名:海野ごはん