かんざらし
二度目の偶然は、岳史と健介の距離をぐっと近づける出会いだった。隣にいた元気な女性が健介の高校の同級生であり、付き合いの長い彼女であることは、その後、健介からすぐに聞かされた。
彼女の名前は芹沢由佳といった。由佳は、ときに暑苦しいほどの快活な健介の性格にも劣らず、とにかく朗らかで明るい女性だった。
諫早駅に甘味処と、偶然の出会いが出会いなら、三人とも同い年という共通点が拍車をかけ、健介の提案でその夜に市内の居酒屋で一緒に飲むことになった。とんとん拍子で進行していったこんな流れも、健介と由佳の人柄に他ならない。どちらかというと人見知りの岳史もすんなり受け入れられたほどだった。
二人と別れてからスーパーで母親の上がりを待っていた岳史は、「今晩はタクシーで帰る
から」と車の運転を母親に託し、健介一押しの郷土料理店へと向かった。
日中の暑さがようやく落ち着くと、雑木林からヒグラシの鳴き声が聞こえてくる。西日が城の向こうの山に隠れると、島原は赤い空に包まれていた。
「へー、お袋さんの実家が島原なんですか」
「ガキの頃は毎年島原に来ていましたよ。あの頃はとにかく電車が大好きで。死んだじい
さんに連れられて、何度も島原鉄道に乗っていて」
「ほー、俺も!良く乗っていましたよー。子どもの頃から運転士に憧れていて。結局、今
では仕事になっちゃっていますけど。はははは!」
「お、夢叶えちゃったってわけですか!?」
「まあ。ははははは!」
「へー、懐かしいなあ。俺、あれに乗るときは、いつも先頭車両へ連れて行ってもらって
いて。運転席の後ろに立つのが大好きだったなあ。そうそう、確か……いつだったかあ。
小一か小二の夏休みにジャイアンツかタイガースの帽子を被った男の子と喧嘩しちゃって
……。自分の“定位置争い”で」
ほろ酔いの岳史が笑いながら言うと、突然、何かを思い出したかのように、健介の目が丸くなった。
「え!マジで!?それ、俺かも!?タイガースじゃなくてジャイアンツの帽子でしょ!あのときの!?うわうわうわー!」
赤ら顔の健介が岳史を指差すと、3人は大声で笑うしかなかった。
2ヶ月後の秋に、健介と由佳が東京へ遊びに来た。気が付けば残暑もすっかり遠のき、高い雲が初秋の趣を少しずつ感じさせる頃だった。朝晩の冷気を帯びた風は、キンモクセイの香りも運んできていた。
健介から「浅草のホテルを予約したから」とメールをもらった岳史は、仕事を終えたその足で二人と合流した。
修学旅行以来の東京という健介は、スカイツリーを目の前にして最後まで興奮冷めやらぬといった様子だったようで、浅草の居酒屋で由佳は笑いながらも呆れた表情をしていた。
その夜は二軒はしごをして終電ギリギリまで飲み交わし、来年夏の再会を約束して別れた。