裸電球
秀治は得意のカクテルでもてなした。趣味や何が好きか、何をしてるのかをしつこくなく上手に聞く。
「ねぇ~マスターは彼女はいるの?」
秀治は一瞬、里恵の顔が浮かんだが「いないよ」と答えた。
「だったら、今度デートしない?」
「うれしいな。昼間だったらというか、いつでもいいよ。お店休むから」
「え~そんなことしていいの?」
「美人の君のためじゃないか、なんだってするさ」秀治は本気で思っていた。
「一度競馬場に行ってみたかったの」
秀治は笑った。この前の女といい今度の女といい馬のどこがいいのか・・・
「なにかおかしい?」
「いや、なんで・・馬なの?」
「なんか颯爽と駆け抜けるところなんかかっこいいじゃない。それにギャンブルもしてみたいし」
「あんまりお馬さんは詳しくはないけど、ビギナーズラックはあるかもね」
「それいいかも・・マスター、お馬さんは?」
「この間続けてはまってしまった。ビギナーズラックで50万円当った」
「すご~い」
「でも、それっきり。最後はすっからかん」
「ふふ、そうかもねギャンブルなんて」
秀治は馬なんてどうでもよかったが、彼女とのデートにはすこぶる興味があった。
次の週の平日、曇り空の競馬場に景子と出向く秀治の姿があった。
「ねぇ、サラブレッドのお尻ってきゅっと締まって、かっこいいわね」
彼女は出走場が顔見世するパドックで柵にもたれながら秀治に声をかけてきた。
「どうかな、君のお尻のほうがかっこいいと思う」
「ちゃんとお馬さん見てよ。私のお尻はどうでもいいから」
「馬券買うのか?」
「うん。どの馬が一番速いと思う?」
「ビギナーズラックは何にも知らないから当るんだ。自分で決めてみろよ」
「そう、じゃあの馬」景子は栗毛色で毛並みが光っている馬を指差した。
「2番目は?」秀治は面倒臭そうに言う。
「あれ」今度はまだらの決して綺麗に見えない馬を指差した。
「なんで?」秀治はいぶかしげに聞いた。とても勝てるような馬には見えなかった。
「感よ。ビギナーの感」そう言うと景子は笑った。
どうせ遊びなんだし、ギャンブルの金はなくなる。秀治は景子が指差した馬の馬券を買いに行った。
レースはあっさり負けた。
2回目も3回目も、かすりもせずに的中しなかった。
景子は「なんで?ビギナーズラックがあるんじゃないの」と言って、性懲りもなく、また馬券を買いに走った。秀治は景子の熱くなる姿を見て
「そう、当たるもんじゃないよ。そろそろ出ようか」と景子とどこかに行きたくて、競馬を切り上げるように催促した。結局、景子は2万円近くもすってしまった。