二人の王女(1)
白く蒼い肌に、虚ろな瞳がそこにはあった。美しいともてはやされてきた、王族の印である深い紫の瞳さえ、今は暗くくすんでしまっている。国の存亡は、私の腕に委ねられた。その責任の大きさを、受け止め切れていなかった。
そのとき、扉を叩く音がした。
「誰だ」
「マルグリー、私だ」
声を聞けば、名を聞かなくとも誰だかわかる。
「アークか、入っていいぞ」
きらびやかに装飾された扉が開き、よく見知った顔が見えた。
「アーク」
「マルグリー、エルグランセへ行くのか」
厳しい表情で、アークが云った。
「そうだ。もう時間がない」
「しかしエルグランセは…」
「危険は承知だ。しかし、私が行かずしてラズリーは得られない」
「ならば、私も行く」
「おまえが?」
突然のアークの言葉に、マルグリットは思わずアークの顔を見た。その顔には、強い意志が込められているのがわかる。
「貴女は騎士としても優秀なのは知っている。だが、貴女一人で行くのはあまりにも危険過ぎる」
「しかし…」
「アジーが、私も付いていくことを承諾してくれた。貴女が国を守るのであれば、私は貴女を守ろう」
アークは、騎士としてマルグリットが訓練に入った際に、最初にできた友人だった。剣の腕も確かで、優れた騎士には違いなかった。
「しかし、おまえに何かあれば…」
「優れた騎士は他にもある、国は大丈夫だ。私は貴女に付いていく」
その強い決意の宿った瞳に、マルグリットは何も云えなかった。嬉しさがこみ上げながらも、迷いがあった。国を蝕もうとするのは、毒だけではない。周囲の国々が、常に他国の隙を狙っているのだ。今は国王の危篤も、新手の毒も隠し仰せてはいるものの、いつそれが漏れるかはわからない。万が一、今の非常事態が隣国に知られれば、その隙をついて侵攻してくるだろう。そのときに、国を守るのは騎士たちなのだ。
「しかし…」
躊躇いが拭えないでいると、背後から別の声が聞こえた。
「アークを連れていくのです、王女」
振り向いたそこには、アジーの姿があった。
「アジー」
「この国には優秀な騎士が揃っております、いざとなれば占術師である我々も共に闘いましょう。あなたが目指す道は、決して容易なものではありませぬ。一人で行くのはあまりにも危険な賭けでございましょう」