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二人の王女(1)

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 この国では、毒や他国の呪術に侵攻されることは珍しくはない。占術師たちの力で、国全体に防御壁を築いているとは云えども、すべてを防ぎ切ることはできないのだ。このときも、国王も普通の病ではなく、なんらかの毒に冒されたらしいと聞かされた。しかし、これまでそれらの毒は、占術師らによって解かれてきた。だが、今回は勝手が違った。どんな薬草を使っても、国王を冒す毒の勢いを止めることはできなかったのだ。
 通常、毒に冒されると、その毒に含まれる成分によって身体に変異を起す。肌の色が変わったり、身体に発疹が現われたりするのだ。しかし、あらゆる症状に対応した煎じ薬があるため、毒の成分さえわかればそれに対応した薬草を調合することで毒は抑えられる。しかし、今回の毒はこれまで知られてきたどの症状にも成分にも当てはまらなかった。成分に限定すれば、この毒の決定的な成分を分析することさえできなかったのだ。随所随所で成分が異なり、その一部一部を抑えることはできても、結局違う成分に冒されてしまう。
 マルグリットは、自室に戻り、王室の騎士の衣装を衣装ダンスから取り出した。滅多なことで、この衣装を出すことはない。常にマルグリットの体型に合わせ、作り直しはするが、使ったことは一度もなかった。余程の戦闘か、緊急事態でなければ、この衣装を身に付けはしない。
 金と紫を基調としたこの生地には、占術師によってあらゆる毒や呪術への防御術が掛けられている。
 自身の身体にぴったりと合った衣装を纏い、外的攻撃から守るための鎧を身に付ける。覗き込んだ鏡の中に、王女としての自分はなかった。
 本来、王女であるマルグリットが騎士の衣装を身につけることはない。女は華やかなドレスを纏い王室の華となり、男は騎士として王室を守る。それが、決まりだった。
 王室では、必ず男と女の世継ぎを設ける暗黙の決まりがある。それは、現王室も例外ではなく、かつてマルグリットには騎士となり剣となった兄があった。だが、皇后であった母と共に、不慮の事故で亡くなってしまった。それ以来、マルグリットは華としての王女でもあり、騎士としての王子としても生きていかなくてはならなくなった。
作品名:二人の王女(1) 作家名:紅月一花