二人の王女(1)
マルグリットはその言葉を聞くと、踵を返した。
「王女、どこへ行かれるのです!」
「決まっているだろう、ラズリーの花を探しにゆくのだ。もはや、これしか頼れるものがないのだろう!」
「しかし、エルグランセの洞窟は…」
「わかっている、ジョハンセがうじょうじょしている」
「そのような場所へ王女様が行かれるのは…」
「もはや一刻の猶予もない!このまま放っておけば、じきに国は滅亡するだろう。それを止められるのは、この花しかないのだ。その可能性の歩を進めず、どうして黙って毒に浸食されていくのを見ていられよう!」
アジーはそれでも、賛成しかねる様子だった。
「しかし、王女にもしものことがあっては…騎士たちに赴かせるべきでしょう」
「これは国の存続が懸かった問題だ!国王が臥された今、残る唯一の王族である私が国を守らなくてどうする!」
「しかし、王女にもしものことがあっては、国はどうするのです!このまま救いの手がなければ、国王も間違いなく亡くなられるでしょう。そうなった後、この国の上に立つのは、王女、貴女しかいないのです」
アジーの言葉は確かであった。王族の血を引くのは、国王を除いてマルグリットただ一人であった。国王亡き後、その王座を継ぐのはマルグリットしかいない。
「しかし、ジョハンセと話をすることができるのは、私しかいない。言葉なくして、あの洞窟へ入ることはできまい。私が行くことが、ラズリーの花を得ることができる可能性が一番高い」
「言葉などで解り合える連中ではありませぬ」
「しかし、行ってみなくてはわからぬ。とにかく一刻の猶予も許さないのだ、私はゆく」
王女!と、背後でアジーの呼び止める声が聞こえたが、マルグリットは踵を返し、部屋を出た。
マルグリットは、この一連の出来事を思い返していた。
異変が起きたのは、二週間前のことだった。騎馬隊の訓練の最中に、近親の者にしかわからない国の非常事態を知らせるラッパの音が鳴り響いたのだ。慌てて宮廷へ帰り、国王が倒れことを知った。