二人の王女(1)
アジーは、この国一番の占術師であった。国を冒そうとする呪術や毒から、古代から続く占術と調合した煎じ薬によって多くの民を救ってきた。すでに四百歳を越えているアジーの知識に勝る者はいない。そのアジーに、為す術がないというのだ。
「このままだとすれば、国王の命はどれほど持つのだ?」
アジーは眉をひそめ、苦しげな表情で国王の顔を見つめ、低い声で云った。
「これまでの悪化速度から計算致しますと、おそらく一週間は持ちますまい」
一週間…もはや、一刻の猶予もなかった。
「街にも、国王と同じ初期症状が出ている者がおります。このままでは、毒は国全体を蝕みましょう」
「やはり、毒は民にも回ったか…」
それは、予測はしていたことであった。
「その者は…?」
「我がテンプル塔に隔離して、他の占術師に看させております。しかし、そのうち膨大な数の民の身体を蝕みましょう…」
「しかし、おまえの占術も煎じ薬も効かぬのに、どうしようと云うのだ!」
「大昔の書に、一千年前、同じような毒が国を侵攻したという記述がございます。このとき、エルグランセの洞窟に咲く白く気高い花が国を救ったと、そう書かれております」
「エルグランセ…ということは、その花は…」
「そう」
アジーは、意志を込めた厳しい瞳で、マルグリットの目をまっすぐに見た。
「おそらく、ラズリーでございましょう」
ラズリー…その言葉を、実際に自身に降り掛かるものとして、しかもこの事態の救済の切り札として聞くことになるとは、どうして思ったことがあっただろうか。マルグリットは、呆然と足下を見つめた。
「王女様もラズリーという花についての知識はございましょう。現世に生きている人間で、この花を見た者は一人もおりませぬ。記述からしか、その花の得体を知ることはできません。白く輝く、とても小さな花。形状もそれしかわかっておりませぬ。数ある記述を辿ってみてわかるのは、その花は一千年に一度しか咲かない花だということです」
マルグリットはその言葉に、思わず乗り出すようにして云った。
「それが本当であれば、その書の記述は一千年前。今は咲いている可能性があるということになるのではないか?」
「そういうことになります」
アジーは、強く頷いた。
「今この事態を救済できる唯一の可能性は、その花のみとなりましょう」