二人の王女(1)
1
漆黒の毒が蝕み、尊い朝は絶望の淵に立たされた
まだ疼きを見ぬ街は、美しく黄金に輝く太陽に翳りがあることを知らない
できるなら、まだやさしい夢を見ていてほしい
いつか漆黒の闇がこの国を覆い尽くすその日まで、
美しいものは美しいままに、やさしい夢はやさしいままに
「国王はどのような状態だ?」
マルグリット・アズベリーは、扉から勢いよく出てきた占術師を呼び止めて聞いた。
「…すでに、お身体全体を蝕まれております…厳しい状態でございましょう」
「治る見込みはないというのか!」
思わず出た強い口調に、占術師は怯えるように云った。
「私どもの力では、もはやどうにも…テンプル塔のアジーも駆けつけておりますが、為す術のないご様子で…」
事の状況は、思う以上に深刻であった。マルグリットは居てもたってもいられず、扉の中に入ろうと歩を進めた。それを、占術師が止めた。
「王女様は中に入ってはなりません!…国王のお姿は…」
「父上の危篤というのだぞ!」
「しかし、国王のお姿はもはや…」
「構わない!」
マルグリットは勢い良く扉を開けた。しかし中に広がる惨状に、思わず息を呑まずにはいられなかった。
目の前にした国王の姿は、もはやヒトの姿を留めてはいなかった。身体に掛けられた真っ白な絹の掛け布団から覗く顔は、真っ黒に変色して醜く腫れ上がっている。耳や髪の隙間から、紫の葉をしたためた蔓が、四方八方に伸びていた。あまりの変貌ぶりにショックを隠すことができず、マルグリットはその場に立ち尽くした。
「王女様」
書物を手に国王のベッドの前に座る占術師の声に、マルグリットはようやく我に戻った。
「アジー…」
「事態は深刻でございます。国王陛下の身体は、すでに七十パーセント以上、毒に冒されております。私どもの占術と煎じ薬では、もはやこの毒を押さえることはできませぬ。随所随所を抑えることはできましても、毒の浸食速度が速過ぎて追いつきませぬ」
深い皺に刻まれた顔に、より一層の悲しみと憂いが刻まれている。アジーの灰色の瞳には、絶望の色が浮かんでいた。
漆黒の毒が蝕み、尊い朝は絶望の淵に立たされた
まだ疼きを見ぬ街は、美しく黄金に輝く太陽に翳りがあることを知らない
できるなら、まだやさしい夢を見ていてほしい
いつか漆黒の闇がこの国を覆い尽くすその日まで、
美しいものは美しいままに、やさしい夢はやさしいままに
「国王はどのような状態だ?」
マルグリット・アズベリーは、扉から勢いよく出てきた占術師を呼び止めて聞いた。
「…すでに、お身体全体を蝕まれております…厳しい状態でございましょう」
「治る見込みはないというのか!」
思わず出た強い口調に、占術師は怯えるように云った。
「私どもの力では、もはやどうにも…テンプル塔のアジーも駆けつけておりますが、為す術のないご様子で…」
事の状況は、思う以上に深刻であった。マルグリットは居てもたってもいられず、扉の中に入ろうと歩を進めた。それを、占術師が止めた。
「王女様は中に入ってはなりません!…国王のお姿は…」
「父上の危篤というのだぞ!」
「しかし、国王のお姿はもはや…」
「構わない!」
マルグリットは勢い良く扉を開けた。しかし中に広がる惨状に、思わず息を呑まずにはいられなかった。
目の前にした国王の姿は、もはやヒトの姿を留めてはいなかった。身体に掛けられた真っ白な絹の掛け布団から覗く顔は、真っ黒に変色して醜く腫れ上がっている。耳や髪の隙間から、紫の葉をしたためた蔓が、四方八方に伸びていた。あまりの変貌ぶりにショックを隠すことができず、マルグリットはその場に立ち尽くした。
「王女様」
書物を手に国王のベッドの前に座る占術師の声に、マルグリットはようやく我に戻った。
「アジー…」
「事態は深刻でございます。国王陛下の身体は、すでに七十パーセント以上、毒に冒されております。私どもの占術と煎じ薬では、もはやこの毒を押さえることはできませぬ。随所随所を抑えることはできましても、毒の浸食速度が速過ぎて追いつきませぬ」
深い皺に刻まれた顔に、より一層の悲しみと憂いが刻まれている。アジーの灰色の瞳には、絶望の色が浮かんでいた。