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秋月あきら(秋月瑛)
秋月あきら(秋月瑛)
novelistID. 2039
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爆々ねこレース

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「勝ってください。わたくしに言えるのは、それだけで御座います。後はご自分でどうにかしてくだ……ううっ」
 また、あやめさんは倒れた。恐らく演技だ。
 ……後は俺ひとりでどうにかしろって、責任逃れか!
 横を見るとまだ明日菜ちゃんは慌てふためいていた。
「私が担いででもローズマリーさまをゴールまでお運びいたしますから、立ってください!」
「だ〜か〜ら〜、お腹が空いて力がでないよ」
 ローズマリーは地面にゴロンと寝転がって、全くヤル気なしといった感じだ。
「ローズマリーさまぁ!」
「明日菜クン、まだ気づかないのかい?」
「なにがですか?」
 突然どこからか水着のお姐さんが走ってきて、ホイッスルを強く鳴らしてローズマリーを指差した。
「失格です!」
「言われなくも知ってるよ」
 ローズマリーは気だるそうに言うと、地面に落ちていたねこ耳を拾い上げた。なるほど、ねこ耳が外れたから失格なのか。俺は平気か!?
 俺は急いでねこ耳が付いてるか確認した。よかった、付いてる。あのゴロゴロで取れなかったなんて、スーパーミラクルツイてるぞ。
 そして、スーパーミラクルついでにグッドアイデアが浮かんでしまった。
「明日菜さん、俺とペア組んでください」
「えっ!?」
 明日菜さんは口をぽかんと開けた。その横にいたローズマリーが手錠の鍵を出して、自分と明日菜ちゃんの腕を解放した。
「ボクはどうせ失格だから、こいつと行くといいよ」
 ローズマリーの言葉を聞いてあやめさんが立ち上がった。
「それはいい考えで御座います。ぜひとも鈴木明日菜さんとお行きください。審判さま、ペアを組み直すのはルールにないはずですが?」
 これを言われた水着のお姐さんは戸惑いの表情を浮かべた。
「えぇ、そのようなルールはありませんが……ですが……」
 あやめさんの目つきがキツくなる。
「問題ないのですね。ないなら結構で御座います。光さま、先を急いでください」
 あやめさんは手錠で俺と明日菜ちゃんを繋いだ。
 見詰め合う俺と明日菜ちゃん。明日菜ちゃんは驚いた顔をしながらも、少し顔を紅くして小さな声で承諾した。
「よろしくおねがいします」

 遅れを取った俺たちだが、ゴールを目指して力の限り突き進んだ。
 最初、明日菜ちゃんはパニック状態だったけど、いつの間にか突っ走る俺に息を合わせて走ってくれていた。
 横を走る明日菜ちゃんの息遣いが、俺の鼓動を高鳴らせる。
 明日菜ちゃんの汗が夏の陽を浴びて、キラキラと輝く。爽やかだ、オッサンの汗とは成分が絶対に違う。
 いつしか俺と明日菜ちゃんは阿吽の呼吸で走り、次々とライバルたちを抜かしていき、ついにトップに踊り出た。阿吽の呼吸っていうのは俺の勝手な思い込みだけど。
 真剣に走る明日菜ちゃんの横顔って素敵だなぁ。なにかを真剣に取り組む女性って素敵だと思う。
 ダメだ、カワイイすぎて、俺のトキメキメーターがリミットを越えようとしている。
 明日菜ちゃんがふと俺に顔を向ける。
「どうかしましたか?」
「明日菜さんってカワイイですね」
「えっ、あっ……」
「明日菜ちゃん愛してる!」
「えっ……」
 言ってしまった。俺はついに禁断の愛の呪文を唱えてしまった。
 俺の呪文はすぐに効果を表した。
 石化呪文炸裂!
 明日菜ちゃん硬直みたいな。
 動きを止めた明日菜ちゃんに合わせて俺の動きも自動的の止められた。けど、勢いがついたせいで俺がぶっ飛ぶ。すると、オプションとして今なら明日菜ちゃんもぶっ飛ぶ。
 俺と明日菜ちゃんはもつれ合いながら地面を転がり、俺は全神経を集中して明日菜ちゃんを守りきった。と思った。
 明日菜ちゃんの膝からブラッドが、紅い血が流れ出てるじゃありませんか!?
 俺のせいだ。俺が怪我をさせたも同然。ジェントルマン俺としての名に恥じる行為をしてしまった。俺ってサイテーだ。
「明日菜ちゃん、大丈夫? 本当にごめん……俺のせいで……」
「大丈夫です、先を急ぎましょう」
「本当にだいじょぶ?」
「はい、だいじょう……うっ」
 立ち上がろうとした明日菜さんが顔を苦痛に歪めた。
「ダメじゃんやっぱり」
「いえ、大丈夫です」
 そう言いながらも明日菜さんは俺の肩にもたれていた。
 トップを走っていた俺たちだったが、いつの間にやら後方から傷ついた戦士たち、じゃなくって出場者が走って、じゃなくって歩いてきている。ちなみに俺は無傷だが、その理由はメイドさんのお陰だったりする。
 ヤバイ、このままじゃ負ける。
 思い立ったら即実行。俺は明日菜ちゃんの身体をお姫様抱っこで持ち上げた。
「なにするんですか!?」
「これでゴールまでひとっ走りしかないかなぁ、と思って」
 俺は明日菜を担いで体力の続く限り全力で走った。火事場の何とか力の発揮。
 ゴールはすぐそこだった。このままゴールに向かってレッツゴーだ。
 サン・ハルカ広場に集まる人々から歓声が上がる。
 そして、俺は明日菜ちゃんと急遽ペアを組んで一位でゴールを果たした。燃え尽きたぜ。
 明日菜ちゃんを地面に下ろして俺は力尽きた。もう、走れない。というか、一生走りたくない。
 天から神々しい光が地面に降り注ぐ。俺を向かいに来たのか……でも、猫だ。天使の羽を生やした猫が天から降りてくる。
 猫は俺の近くに降りた。それを見て明日菜ちゃんが恭しく頭を下げた。
 ああ、なるほど、だから『爆々ねこレース』なのか。つまり、ハルカ教の神は猫だったのか。
 猫が人語をしゃべった。まあ、神ってくらいだから驚くことじゃない。
「こんにちは、わたしの名前はハルカです。えっと、カミサマやってます」
 俺は唖然とした。カミサマっぽくねえ!
「マジでカミサマっスか?」
「はい、いちようカミサマやってます。えっと、優勝したのってお二人ですよね。願い事聞きますけど、どうしますか?」
「ちょっとお待ちください!」
 水着のお姐さんが話に割り込んで来た。
「このお二人はペアを組み直しています。それはルール違反には当たらないのでしょうか?」
 さっきの水着のお姐さんはあやめさんがうまく丸め込んだが、今度のお姐さんはどうにもならなかった。
 考え込むカミサマ。
「う〜ん、わたしはルールに関しては一切関知してないんですよねぇ。でも審判さんがそういうんなら、ルール違反なのかなぁ。じゃ、そういうことでわたしは帰ります」
 カミサマは何もせずに天に帰ってしまった。何しに来たんだよ!
 俺は結局願いを叶えてもらえなかった。無念だ。
「……無念だ。せっかく、明日菜ちゃんとの愛をカミサマに取り持ってもらおうとしたのになぁ」
「……白金さん?」
「なに明日菜さん? ああ、手錠外さないと」
 俺が手錠を外そうとすると、明日菜さんが俺の手にそっと繊手を乗せた。
「外さなくてもいいです。もうすぐ花火が打ち上げられるんですけど、このまま見に行きませんか?」
「はい?」
「行きましょう」
 理解できなかった。明日菜ちゃんの行動が掴めない。
 辺りは夕暮れに染まり、俺は明日菜ちゃんに引きずられるままにゴンドラに乗った。
「明日菜ちゃん、何でゴンドラなんかに?」
「ここから見る花火が一番綺麗なんですよ」
「だから?」