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秋月あきら(秋月瑛)
秋月あきら(秋月瑛)
novelistID. 2039
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爆々ねこレース

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 そして、気が付けば俺たちはトップに躍り出ていた。ここに行き着くまでに、どれだけの人々が犠牲になったことか……などと、しみじみお茶を飲んで語ってる雰囲気ではない。俺たちの横にはローズマリー&明日菜ペアがぴったりとくっついているのだ。
 ローズマリーの手が素早く動いた。その手にはしっかりと折りたたまれた日傘が握られている。
 ビュッと風を切る音。
 手錠をはめた俺の腕が強引に引っ張られる。
 カキーン!
 手錠の鎖が日傘を受け止め、あやめさんはそのまま日傘を奪い取って後方に投げ飛ばした。が、それだけでは済まなかった。
 俺の身体が宙を浮く。
「な、なにするんスか!?」
「ご安心を!」
 そう言ったあやめさんは俺を脇に抱きかかえたまま可憐に回転した。それは攻撃だった。俺の足がローズマリーの顔面を襲う。んなアホな!
 ローズマリーは腕で俺の蹴りをガードするが、勢いに押されて地面に明日菜ちゃんごと転倒した。俺はこんなことするつもりはなかった、不可抗力だ、マイエンジェル明日菜ちゃ〜ん!
 だが、心配も必要なかったらしく、ローズマリー&明日菜ペアは五秒もしないうちに立ち上がったと思ったら、ローズマリーが靴を飛ばしてきやがった。
 ローズマリーの飛ばした靴は放物線など描かず、一直線に俺の後頭部にヒット!
「ぐわっ!」
 俺の頭は地面に引き寄せられた。つまり、転倒。
 がしかし!
 あやめさんは俺の転倒など無視して走り続ける。
「ちょっとあやめさん、ストップ!」
「うるさい!」
 ……俺は何も言わずに引きずられることにした。
 俺たちの真後ろを走るローズマリーが残った靴を飛ばしてきた。だが、二度目はない!
 バシッと華麗に片手で靴を受け止めた俺は、ローズマリーに向かって投げつけてやった。だが、それも受け止められた。
「ボクに靴を投げつけるなんて、いい度胸だね、キミは」
「貴様から飛ばして来たんだろうが!」
「足が滑ってだけ……なんてね、フフ」
 バカにされてるのか俺は!?
 こいつムカツクぞ、なんだか知らんがムカツク。言っとくが、これは嫉妬とかじゃないぞ、明日菜ちゃんと一緒でいいななんて、これっぽちも思ってないからな。思ってないぞ。思ってないったら、思ってない!
 ローズマリーが靴を持った手を大きく振りかぶった。
「ああ、手が滑った!」
「ウソつけ!」
 投げらた靴を受け止めた俺はそのまま投げつけた。が、やはり受け止められた投げ返される。
「ば〜か」
 感情がこもってない言い方が必要以上にムカツク。このローズマリーとやらは俺の手で消してやる。
「オカマ野郎!」
「失礼なヤツだなぁ。ボクは性別を超えた存在なんだ」
 俺の投げた靴を受け止めたローズマリーが再び靴を投げようとした。けれど、それを横にいた可憐な手が止めた。
「ローズマリーさま、これ以上はしたないまねはお止めください」
 ローズマリーを止めたのは明日菜ちゃんだった。だが、靴はローズマリーの手を離れた。
 俺の近くで鈍い音がした。
 後頭部を押さえる般若が振り返った。
「ふざけんな、カマ野郎!」
 怒号するあやめさんを見て、明日菜ちゃんはかなりビクついた表情をしたが、横にいるローズマリーは涼しい顔をしている。
「ボクをカマ野郎だなんて心外だなあ。ボクがオカマじゃないことは、あやめがよく知ってるじゃないか?」
「わたくしはローズマリーさまのことなど存じ上げません」
 明らかにあやめさんの口元は引きつっていた。その顔は怒ってるんじゃない。何かに脅えていた。
 あやめさんが脅えるなんて、ローズマリーの言葉の裏に何かが隠されていたのか?
「ボクたち――」
 ローズマリーはなんか言おうとしていたみたいだけど、突然あやめさんがローズマリーに飛び掛った。ちなみに俺も自動的に飛び掛った。
 あやめさんに飛び掛られたローズマリーは転倒で、自動的に明日菜ちゃんも転倒。あやめさんも転倒して、俺もついでに転倒。
 四人はダンゴムシのようにゴロゴロと、グッドなタイミングで坂になっていた道を転がった。
 俺は混乱に乗じて明日菜ちゃんを庇うために抱きしめた。いい香がするなぁ。
「うがっ!」
 あられもない声を出す俺。バチが当たった。
 住宅の壁にぶつかってどうにか動きが止まった。その代償は俺の腰。かなりの勢いで打ち付けた。だが、どうにか明日菜さんは守りぬいたぞ!
「明日菜ちゃん……じゃなくって、明日菜さん大丈夫ですか?」
「ええ、あの、その、身体を離してもらえますか?」
 真っ赤な顔を目の前にして、俺も顔を真っ赤にしてすぐに明日菜ちゃんから離れた。
「光さま、わたくしの腕までお引きにならないでください」
「ごめん、あやめさん」
 そう言いながらも俺は、さんざんさっきまで引っ張り回したのは誰だよ、と思ったが、それは口にできない。しかも、よく見るとあやめさん負傷!?
 地面に横たわるあやめさんは足首を押さえて苦しそうな顔をしていた。
「どうしたんスか、あやめさん?」
「少し足首を捻ってしまったようで」
 そう言って立ち上がろうとしたあやめさんだが、あやめさんは足元から崩れるようにして再び地面に倒れてしまった。
「わたくしとしたことが、なんたる不覚で御座いましょうか」
 あやめさんは胸元から手錠の鍵を取り出すと、俺と自分を繋いでいた手錠を外した。
「光さま、わたくしはもう先には行けません。どうか、この先はお一人で……ううっ」
「あやめさん!」
 あやめさんはぐったりと地面に倒れた。
 ……そうじゃなくって、手錠外しても意味ないじゃん。一人で行けって言われても、ペア組むのがルールなんでしょ?
 俺は倒れたあやめさんの身体を揺すった。
「あやめさん、大丈夫っスか?」
 すると、あやめさんは何事もなかったような顔で身体を起こした。
「わたくしのことは心配御座いません。早くお行きください」
「そんなこと言われても困るんですケド?」
「光さまはゴールを目指せばいいので御座います。それでは、失礼いたします」
 バタっと、再びあやめさんは地面に倒れた。ワザとやってるのか、このメイドさんは!?
 ふと、俺が横を見ると明日菜ちゃんが慌てふためいていた。
「ローズマリーさま、しっかりなさってください」
「明日菜クン、ボクは……もうダメだ……お腹が空いて動けない……なんちゃって」
「こんな時に冗談なんて言わないでください」
「お腹が空いたのはホント。でも、もう走れないよ」
「そんな……」
 明日菜ちゃんはローズマリーの手を取り、互いを見詰め合う二人。俺は断じて許さんぞ、この光景!
 まだ、先に行こうとしない俺のせいか、あやめさんが再び上半身を起こした。
「光さま、早く?行け?と申し上げております」
 ニッコリ笑顔のあやめさんだが、目の奥が笑ってない。逆らったら殺されそうだ。でも――。
「無理だから」
 ハッキリと言ってしまった。かなり死を覚悟した。俺って度胸あるぅ〜。
「光さま」
「何で御座いましょうか?」
 淡々した口調のあやめさんに思わず変な言葉使いで返してしまった。
 あやめさんは怒らなかった。