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秋月あきら(秋月瑛)
秋月あきら(秋月瑛)
novelistID. 2039
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爆々ねこレース

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「あやめさんはつけてないんスか?」
「恥ずかしいですから。でも、光さまがどうしてもと仰るなら……」
 なぜ、そこで顔を紅くする。明らかに『光さま』の部分から顔を赤らめたぞ。しかも、気づけば、あやめさんの腕が俺の腕に絡んでるし。豊満な横乳が腕に……。
「あのぉ、腕を組むの止めてくれないかなぁ?」
「どうしてで御座いますか? いざとなった時、光さまをお守りするのがわたくしの役目で御座います」
「でも、さっきから周りの視線が……」
 さっきから街を歩く女性たちの視線が痛い。絶対攻撃されてる。しかも、あいつら独身女性の彼氏いない組だ。そうだ、絶対そうに違いない。
「カッコイイって罪だな、フッ」
 俺世界に浸ってる俺の腕をあやめさんが強引に引いた。
「あちらに見えますのが、白薔薇派の本部で御座います。ついでに説明すると、近くにある、あれが紅薔薇派の本部。このサン・ハルカ広場に聳え立つ鐘楼は朝と夕に鐘を鳴らすのですが、その音色は世界一で御座います」
 途中で明らかに口調が変わっていたが、あえてそこには触れず、俺は鐘楼の近くにある白薔薇派と紅薔薇派の本部を見た。
 ……工事中かよ!
 どちらの建物も絢爛豪華だけど、互いに建物の一部が工事の真っ最中だった。しかも、中断されてるっぽく、機材や重機類が放置してる。
「工事中なんスか?」
 この質問をした途端、あやめさんは一瞬冷ややかな表情をして、聞こえるか聞こえないかの微妙な声で何かを呟いた。
「わたしも給料を減らされたんだよ」
 明らかに吐き捨てた言葉には毒がこもっていた。危険だ、このメイドさんは危険だ。俺はあやめ姐さんを決して怒らせてはいけないと心に刻み込んだ。
 俺たちは本部の前を素通りし、ひときわ目立つ荘厳な中東宮殿風の寺院の横を通った。てゆーか、素通りしちゃっていいのかよ、くらいの勢いで素通りした。だって、俺って新代表になったんじゃなかったっけ?
「こちらの建物はハルカ教の総本山で御座います、サン・ハルカ寺院で御座います。西洋文化と東洋文化を混ぜ合わせたこの寺院は、大理石による二階建てで御座いまして、金色に輝いております壁などは本物の金を使っております。いくつもの柱が連なっている入り口のアーチは、金色のモザイクとゴシック様式の繊細な飾りで装飾され、あの入り口は厳重な警備がされておりますゆえ、中にはラフな格好をしているだけで入ることができません」
 ラフな格好って……ネコ耳はいいのか。しかも、よくわからなかった説明だ。ゴシックって何だ?
 この建物からは東洋文化の仏教の雰囲気が感じられけど、その建築様式の基本は西洋風らしくって、キラキラうるさい装飾が所々にある。金持ちの皮肉としか思えない。
 建物の上に乗ったタマネギみたいな尖った金色の屋根が中東の宮殿風に見える。それから、寺院の一番高いところにあるアーチには、大きな猫像とその左右に並ぶ複数の仔猫の像が光の目に留まった。そう言えば、街のいたるところに猫像があったような気がする。
 あやめさんの観光案内は目まぐるしく進み、やがて俺はゴンドラに乗せられていた。
 水路を利用したゴンドラの左右には家の壁とかがある。上を見ると洗濯物が干してあったりするし。しかも、どうしてもステテコパンツから目が放せない……呪いだ。
 ゆらゆらと揺られるゴンドラの上に乗ってるのは、どう見ても観光客で、その中の女性観光客グループが俺に話しかけてきた。
「学生さんですか? よかったら一緒に写真撮ってください」
 学生さんと言われたのは、俺が学生服を着たまま拉致されたからだけど、その後の話に脈絡がないぞ。だが、俺はついつい普段のクセでニッコリ笑ってしまった。
「いいですよ。あやめさん、シャッター押して貰えますか?」
「承知いたしました」
 街をバックに俺は女性観光客たちと写真に写ってしまった。しかも、爽やかなサービススマイルで。
 ちょっと、疲れた気分になった俺はため息をついた。そんな俺の傍らに来たあやめさんが、そっと耳打ちする。
「撮ったフリをしてやりました」
 その笑みはまさに仔悪魔チックな笑みだった。絶対あやめさんって性格歪んでる。
 俺たちは水上レストランでゴンドラを途中下車した。車じゃないから、下車じゃないのか?
 水彩画で描かれたような透明感のある建物や家具が、爽やかなオーラを前面に出してるオープンカフェが俺的に気に入った。
 店内は観光客で賑わっていた。この都市に観光客がいない場所はないのか?
 ぐるっと店内を見回しながら俺があやめさんに連れて来られたのは、まさに俺お気に入りのオープンスペースだった。しかも、そこには二人の女性が座っている。
 俺のハートを一撃にされたーっ!
 ビューティフルな女神様のご登場だ。栗色の髪をポニーテールにまとめちゃってるところが俺好みだし、前髪で少し太めの眉毛が隠れてるのもポイント高し。そして、ポイント二倍サービスなのが眼鏡チェーンの付いた眼鏡から覗く潤んだ大きな瞳。ステキだぁ。
 もう、すでに俺の目には片方の女性しか目に入っていない。運命だ、デスティニーだ、って運命を英語にしただけじゃん!
 ビューティフルエンジェルここに光臨だ!
 立ち上がった二人の女性は順番に挨拶をはじめた。
 ひとり目は空色ドレスを着たショートカットの女性。
「ボクの名前はローズマリー。紅薔薇派の代表をしている」
 鈴が鳴るような澄んだ声。しかも、ボクっていうのが以外に俺の胸をキュンとさせてしまった。だが、頭にネコ耳。
 ふたり目が先ほどのポニーテールの女性。俺的女神サマだ。
「わたしはローズマリーさまの付き人をさせていただいています、鈴木明日菜と言います」
 くわっぱ!
 意味のわからない奇声を発してしまいそうなほどの声だった。可愛らしすぎるのは罪だぞ。でも、可愛いから許す。って矛盾してるし。
 俺は決意しちゃうぞ、何があろうとこの都市に留まってやる。愛の力は偉大だ。
 闘志メラメラで意識が飛んでしまっていた俺にあやめさんの肘鉄が入る。
「うっ……」
「光さま、ご挨拶を」
 そう言ってあやめさんは、俺だけに見えるようにして掌に書かれている文字を見せた。俺はそれをそのまま棒読みする。
「私は白薔薇派の新代表に就任した白金光です。今日はお日柄もよく、こんな良き日にローズマリーさまにご挨拶できて――」
 その後に書かれている文字を読むべきか俺は戸惑った。あやめさんは俺の腹に肘を突きつけてるし。でも、読めるわけないだろ、こんなの!
 あやめさんの掌には、こう書かれてある。
 ――そんなこと思ってわけねーだろバカ、お前の顔なんざ二度と見たくねえんだよブス。オカマのクセして粋がってんじゃねえぞ(死)!
 酷い文章だ。しかも、最後の『オカマ』っていうのが気になる。
 俺が先を読まないので、あやめさんは仕方なく笑って誤魔化した。
「新代表は少々緊張しておりますので、堅苦しい挨拶は抜きにして、お食事をしながら楽しいお話でもいたしましょう」
 あやめさんに勧められるままに俺たちは席についた。その時にあやめさんが俺の足を踏んだのは、絶対ワザとだ。だが、この?素晴らしい?メイドさんには何も言えない。