片山レンジャー 前編
「あ、っと、そうだ、あんた名前、教えてよ」
ようやく落ち着いたのか、元の位置に座って恵子ちゃんは聞いた。
「え、名前ですか!?」
「うん、元の名前はなんて言うの?ダサいヒーロー名は呼びたくないんだけど」
「ああ...」
名を問われた片山レンジャーは、少しためらいながら口を開く。
「僕、名前は、その...」
「何?変わった名前でも笑わないわよ」
「いえ、実はですね。その、僕は、生まれてすぐに両親を亡くしましてね」
「え、うん」
「片山レンジャーになるまでの十七年間、『おい』とか、『それ』とかで呼ばれてたんで、自分の名前知らないんですよ」
「うっ、えええええ!?」
「参っちゃいますね。とりあえず笑ってやって下さいな!あっはっははは!」
「い、いやいやいや、笑うような問題じゃないし!というか、何でそんな暗い過去で笑えるのよ!?」
少しだけ目を細めて、彼は言った。
「今、僕は楽しいですからね」
その響きには、チラと真実が含まれている。
作品名:片山レンジャー 前編 作家名:なっちょん