片山レンジャー 前編
「あ...」
瞳が、濡れている。
気がついた時、恵子ちゃんの目前はうぐいす色だった。
うぐいす色の彼が抱きしめていたのだ。
かなりの時間が経っても、自分の傷は大きかったらしい。
柄にも無く、取り乱した自分が恥ずかしい。しかも、嫌っている筈のヒーロー相手に。
ただ、眼前の胸板は異常なほど厚く、背に回されている腕は、吃驚するほど太い。見事な体格であった。
「ぷっ、くくっ」
しかし、うぐいす色のスーツと、言動のへっぽこ振りが作り出すアンバランスさ。何故か可笑しくなってきた。恵子ちゃんは片山レンジャーの腕を軽く叩いて言う。
「不思議ね、あんたのへっぽこ振りを見てたら、大丈夫になっちゃったわ」
彼は腕を緩める。
「あの、僕、は、えっと...」
額の上で、相手を思って自分は何も言えない。それでも何か言いたくて、言葉を探してじりじりする姿が動く。ちょっと可愛い。
「変に、気を使わないで良いわよ」
恵子ちゃんはやっと笑った。
作品名:片山レンジャー 前編 作家名:なっちょん