片山レンジャー 前編
雨が降っていた。
幼い恵子は身重の母と歩いていた。
お気に入りの赤い傘が二つ、ゆらゆらと踊る。
最近のマタニティドレスについて、嬉々として話していたと思う。
母は良く笑う人であった。
それは、突然起きた。
怪人が現れ、母を拘束した。
怪人は傷だらけで、体液が母を汚す。
「この女の命が...」
言葉は、後ろからの斬撃で遮られた。
何かのヒーローである。
現行法では、人質を取られた場合、ヒーローは武器を捨てねばならない。
人質となる前に敵を倒すのは定石だった。
恵子が気づいた時には、ヒーローが三十人近く、怪人と、母と、お腹の子供を取り囲んでいた。
「止めて!!」
小さな手を、伸ばした筈だ。
しかしヒーローの攻撃はやまず、もがく怪人が母を盾にするのは、必然と言えた。
雨が降っていた。
お気に入りの赤い傘が一つ、無惨な姿となっていた。
身重の母は、動かない。
ヒーロー達はもう消えた。
母達も、また。
作品名:片山レンジャー 前編 作家名:なっちょん