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クラップハンズ
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novelistID. 38561
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ナイトパーク序

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Character1



Character1
-東金 真美の場合-

東金真美には叶えたい夢があった。
その夢を叶えるためならどんなことをしてもいいとさえ思っている。
そして、もしかしたらその夢がかなうかもしれない。

どんな夢でも叶えることができるという夢の王国。
人気のない、暗く、沈黙したその場所で真美はため息をついた。
ポニーテールに束ねた黒髪とチェック柄のスカートが夜風に揺れる。
満月に照らさ暗闇にぼんやりと浮かぶ少女の姿は、美しい黒髪とともにどこか神秘的なイメージすら漂わせている。

「清美…」

真美には妹がいる。
3つ年の離れた明るくてスポーツの得意な妹だった。
姉とは違い、ショートにした清美と、真美は美人姉妹として有名だった。
父と母、よく笑う妹。
家族は真美にとって心の安らぎであり、何よりも大切な空間だった。
清美が事故にあうその時までは。

3年前、まだ真美が中学生だった。
小学生高学年が帰宅途中に清美が信号無視のトラックに轢かれ重傷を負った。
その時のことを真美を決して忘れないだろう。

突如呼び出された職員室。
電話口で泣きじゃくる母。
病院の廊下に立ちつくす父。

病室のベッドで眠る清美の頭は髪の毛一本残さず剃りあげられ、包帯が巻かれていた。
身体じゅうからのびる無数のチューブはまるで清美の幼い身体にまとわりつくグロテスクな蛇のようにも見えた。
トラックに弾き飛ばされ、こん睡状態に陥った妹はそれから3年間、目覚めることは無かった。

優しかった母は部屋に引きこもるようになり
父は妹の入院費のため、仕事で帰りが遅くなることが増えていった。
家族の会話は皆無と言っていいほどに減り、笑い声は絶え、真美にとって家にいる時間は苦痛以外のなにものでもなかった。

父や母を元気づけようとする真美のこころみはことごとく失敗に終わり、もはや病室で目を閉じたままの妹に語りかけることしかできなかった。
今日は学校でこんなことがあったよ、もうすぐ夏だね、クリスマスプレゼントは何がいいかな。
こたえのない、独り言のような会話を続けながら、骨と皮だけになってしまった妹の身体をマッサージすることが真美の日課だった。

希望は諦めへと変わり、やがてそれはもうすぐ絶望へと変わる。
自分に出来ることは何もない。
ただこうして生きても死んでもいない妹と一方通行の会話をするだけの毎日。
壊れてしまった家族の絆。

でも、もし妹が目を覚ますことができれば。
あの日々がきっと戻って来る。

そのためには自分以外の、11人もの人間の命を奪わなければならない。
いやもしかしたら半分、運が良ければ1人で済むかもしれない。
制限時間のぎりぎりまで何処かに隠れて、最後に残ったもう1人さえ…。

「私、やってみる。
 お父さん、お母さんのためにも。
 あなたのためにも。
 そして私のためにも、…怖い…けど」

人を殺す。
殺人。
そう考えるだけで手が震える。
喉がヒリつく。
勝手に涙が溢れて来る。

両手にぎゅっと力を込めて。
真美は大きく深呼吸した。
勝手に溢れてくる涙を断ち切るように、まぶたに力をこめて目を閉じる。

「清美、おねぇちゃんを守って、お願い」

それから。
血だまりの中に倒れた少女の傍らに大きな石が転がっていた。
石には乾いた血がどす黒くこびりつき、長い髪が無数に絡みついている。

ナイトパーク開園から15分。
東金真美は最初の脱落者となった。


作品名:ナイトパーク序 作家名:クラップハンズ