ナイトパーク序
Character2
Character1
-香取 順平の殺人-
香取順平、35歳、会社員。
妻と娘の3人暮らし。
経理課勤務、係長。
しかしこれ以上昇進の見込みはなし。
そして、家族に内緒で重ねた借金の見込みもなし。
きっかけは同僚に誘われたパチンコだった。
ちょっとした付き合い、小遣いをドブに捨てるつもりだった。
だが数千円の小遣いは、ほんの数時間で10万円以上になっていた。
その日は同僚と飲み、遊びあかした。
妻に財布を握られていた香取にとって、財布の中身を気にせず遊ぶということは素晴らしい解放感だった。
最初は遊ぶ金のため。
だがいつしか、パチンコという、ギャンブルの魅力に香取ははまってしまっていた。
ほんのちょっとのつもりの借金はまたたく間に膨れ上がり、俗にいう自転車操業と呼ばれる状態になるまでそう時間はかからなかった。
返済のために金を借り、また金を借りる。
少しでも手元に金があればパチンコに使う。
もはや自分でもどうにもならなかった。
自分でもどうしてこうなったのかも分からない。
手元に残ったのは莫大な借金と利子だけ。
やがて自転車操業も行き詰まり、窮した香取は闇金に手を出した。
そしてそれが決定的となった。
闇金の暴力的な取り立て。
家族や会社にバラすと脅され、ついに香取は会社の金に手を出した。
その金でひとまず闇金を返済した。
だがそれで終わりだった。
子供のような稚拙な小細工はいずれバレる。
そうなれば自分は横領犯として犯罪者になる。
妻は。
娘は。
これからどうすればいいのか。
それに闇金の返済を一時的にしのいだだけで、数百万の借金は残っている。
もはや全てが時間の問題…のはずだった。
失われた平穏。
出世の見込みはないながらも安定した生活。
もしもそれを取り戻せることができるのなら。
ナイトメアパーク開園直後。
気付くと香取はメリーゴーランドの目の前に立っていた。
電源を落とされたメリーゴーランドは不気味で、どこか悲しげだった。
闇の中にぼんやりと浮かぶ白い造り物の馬を見つめながら、香取はベルフェゴルの言葉を思い出していた。
「最後に生き残った人間の夢が…叶う」
もし…もしも。
自分が最後まで生き残れたら。
あの平穏な日々が戻って来るのなら。
その時、香取は人の声に気付いた。
メリーゴーランドの物陰に隠れ耳をすました。
男の声ではなさそうだ、ならば危険は少ないだろう。
香取はそう判断して声が下方向へ慎重に向かっていった。
…そこから先を香取はよく覚えていない。
茂みから見つけた娘と同じ年頃の少女。
自分の願いと、それを叶えるためにはあの少女を殺さなければならない。
娘のためか、自分のためか。
殺すのか殺されるのか。
そこから先の記憶は香取の脳の中で靄がかかってしまっている。
気がつくと先ほどの少女が血だまりの中に倒れていた。
自分の行いに気付いた香取はその場を逃げ出した。