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「そういうことになったら、会場に招待しますよ。清さん」
 それどころではなかった。今は中野の勤め先の印刷会社が倒産しそうになっているのである。この先どうやって生き延びるかが、目下の最重要課題なのだ。
少しぐらい受けのいい風景画を描けても、それで生活できるものではない。絵画制作で成功者となるためには、才能と努力以外に多くの要素が必要なのだと思う。由美には全てが揃っているのではないかと、中野は思った。
「勉強しに行くんだね。成功を祈ってるよ」
「清さんはこれからも描き続けるのよね。ライバルね。山崎先生が、あいつは俺の一番弟子だって、何度も云ってた」
「……去年、長野の方へ描きに行ったとき、八十号を野外制作していた老人がいたんだ。半分に折りたたんで持ち運びができるように、キャンバスを細工しているんだよ。凄い執念だね。歳を尋いたら九十だって」
「どうだった?」
「枯れたいい色を出してたね。久しぶりに感動したよ。その歳で毎日石膏デッサンしてるって、云ってた。俺も七十歳を超えたら頑張ろう、なんて思った」
「今も頑張らなくちゃ……名前は忘れたけど、六十五歳で初めて油絵を習い始めて、世界的に有名な画家になったおばあさんがいるのよ」
「そんな人がいるんだね。人間の可能性は想像を超えるね。四十年後に二人展をやろうか」