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 由美が手を差し出したので、中野は彼女の笑顔を見ながら綺麗で柔らかいその手を握った。
「いいわね。でも、随分先の話だわ。四十人の鬼に笑われちゃう……あと二十分くらいで、電車が戻って来るわね」
「計算できないけど、四十年の何十万分の一だよ。飛行機の中には忘れ物をしないようにね」
 また電車が入って来た。そろそろ本気で行動するべきだと、中野は考えている。そして、忘れ物を取り戻したあとは、由美とふたりで安い居酒屋にでも行くことにしようかと、中野は考えた。
「もう日没ね。夕方の光って、好きだわ」
 夕焼けの空のせいで、由美の肌の色がほんのりと暖色系の度を増してきていると、中野は思った。高く上空を移動して行くのは鴨のような水鳥たちらしい。夕陽を受けて輝く雲が、はっとするほど美しい。
「十年くらい前かな、何日か夕焼けの風景を描くために通ったことがあったよ」
 中野は狭い空を見上げながら云った。
「どこへ?」
「多摩川のね、上の方」
「電車で通ったの?」