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過去からの訪問者(6月4日変更)

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「いない、いない。そんなものできたことないわ」
「……俺も今、いないんだ。手を繋いで歩いているカップルなんか見ると、もう、羨ましくてさ」
「……三年くらいかな。待てない?」
「どこか遠くへ行くのかな?」
「そう。そうなの。海の向こうへ行っちゃうの。三年で、多分、三年で戻るから……」
 由美の父親は大会社の社長だという噂を、中野は思い出した。由美は別世界に生きている存在であり、そういう相手と今は話をしているのだと、彼は痛感している。
 五年前にも、同じことを考え、悶々としていたような気がする。長い人生なのだから、いつかは自分も資産家になれるだろうかと、具体的なプランもなく思っていたことがあった。絵でも小説でも著名な流行作家となり、テレビにも度々出演してタレント並みに忙しい毎日を送るようになりたい。そうなれば、かつて自分を見下した人たちを見返すときが来る。死後も美術と文学の歴史に有名作家として名を残す。
 また、別の瞬間には、貧しい一般市民のままで何が悪いのかと思うことが多かった。趣味として好きな絵を描き、趣味として愉しみながら小説を書く。誰にも批判されることなく、経済的には常に汲汲としていても、いつも豊かな心で生きて行きたい。流行作家も無名の趣味人も、必ず同様に老いを迎え、そして同様に人生を終える。それでいいのではないか。