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「そうですね。だって、五年ぶりじゃないかしら」
 女性の顔から笑みが一瞬消え、再び笑顔になった。目が綺麗だった。幾分青みを帯びた白目の部分が清潔感を感じさせる。
「……五年ですか。じゃあ、私が二十歳のときから会っていないということですね?」
 今年二十九歳の中野は冗談としてそう云い、そして、笑った。すぐに相手も笑った。艶のある髪が綺麗で、長さは肩のあたり。
「清さんったら、相変わらずなんだから。わたしも座りますね」
 彼女は中野の隣に座った。以前通っていた絵画教室の生徒だった女性だと、名前を呼ばれたときに中野は漸く思い出した。同時に坂野由美という、相手の名前も思い出すことができた。
 五年前の彼女は掛け値なしの少女だった。互いの住まいも近いらしく、絵画教室からの帰りには同じ路線バスで帰ったものだった。
「美大を受験するという話だったけど、受かりましたか?」
「一浪してから入学して、今年卒業しました……わたしって、今も抜けたところがあるのよね。電車に絵の具箱とキャンバスを忘れちゃったんです」
 中野は照れ笑いしている由美が自分と同じ失敗をしたことが判ると、五年ぶりということになるのだろうか、再び彼女に親しみを覚えた。
「美大を卒業したひとが、商売道具を電車に忘れるなんてねぇ……そうだ。由美ちゃんは前に同じ失敗をしたんだよ。懲りないんだねぇ」