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 北品川のその居酒屋は日曜日でも賑わっていた。二人が品川から京浜急行の各駅停車に乗り換えてやってきたそこは、アトリエIのメンバーが時々集まる場所である。そこへ連れてきたのが由美だった。二人共生ビールを注文した。
「故意に、由美ちゃんも電車に忘れ物をしたんだね?」
「そうです。実はそうなんです。ごめんなさい」
 由美は俯いたまま謝った。
「そうか。私は下手な推理小説を書いていますが、ご存知ですか?」
「はい。知っています。でも、下手ということはありませんよ。とても素敵な小説ばかりじゃないですか」
「意地悪じゃなくてね、その日本語は間違っています。『とても』というのはね、とてもじゃないけど、という場合の『とても』なんですよ。だから、とてもひどい、とか、とても狭いとか、良くない意味で使うべきです」
「さすが小説家です!ごめんなさい。そうだったのね。認識が甘くて点数が下がりっぱなしですね」
「そんなことはないけど、なぜなのかな?まさかと思うけど、私の小説の愛読者ですとか、云うのかな。あっ、ビールを頂きましょう」