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過去からの訪問者(6月4日変更)

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「そこには葛藤があったんだね。声をかけたい気持ちもありながら、明後日には遠くへ行ってしまうのに、今更声をかけても意味がないのではないかという……」
「五年前、清さんが付き合ってた郁子はね、わたしと同級だったのよ。知らなかったでしょ?」
 郁子が卒業したあとに棄てられたならば、彼女の卒業アルバムの写真を見れば判ったかも知れないと、中野は苦々しく思った。
「それはびっくりだね。全然知らなかったよ……じゃあ、俺が彼女に棄てられたことも当然知ってたわけだ」
「勿論よ。わたしが彼女にそれを頼んだからよ!」
 そのとき、由美のまぶたから涙が溢れ出た。
「だから、罪悪感のために電車の中で声をかけるのを躊躇ったと……」
「待ってたのよ。あれから五年間、ずっと待っていたわ!」
 由美の涙は更に溢れ続けていた。まるで何時間も泣き続けているような顔になった。
「だから、二年割引して、三年間、待っていてくれる?」
 中野には周囲からの多くの批判的な視線が、痛いほど感じられた。彼は呆然と立ち尽くし、狼狽していた。