アトリエの恋
「ああ、もう厭。運転、代わって下さい」
「わかった。代わるよ」
阿坂は助手席から離れ、さやかと車の前ですれ違ったあとで運転席に入った。
車というものは、国籍に関係なく走らせることができた。実にいい車だった。
高速道路に入った。平日の下り線は空いている。だから、気持ちよく車を走らせることができた。こんなに快適なクルージングは初めてだった。
高速道路沿いの山にも紅や黄が目立っている。走る距離が増えると、その度合いも増して行く。
「きれいね」
「きれいだね。機嫌は直った?」
「少しは……あなたは?」
「温泉にでも入って、リフレッシュしたいね」
時刻はまだ朝の九時過ぎだった。
「名案だわ」
さやかはやっと明るい笑顔になった。
「高速道路から出て探してみようか」
「そうね。随分遠くまで来たものね。そうしましょう」
さやかは朝の六時過ぎに出て来たのだった。
一旦サービスエリアに入った。阿坂は入っている車が多いのに驚かされた。
歩いている人もたくさんいる。
トイレで彼は姉のことを思い出した。既に結婚している姉は、数年前に年下の青年と同棲していたことがあった。その快活な背の高い青年は、韓国人だった。姉が彼と別れたのは親に反対されたからだった。