アトリエの恋
秋のドライブ
十一月の最初の木曜日は朝から晴天だった。阿坂はさやかが運転する車の助手席で、
落ち着かない気持ちだった。さやかは意外に達者な運転をしている。彼女の父はなかなか良い車に乗っていた。車内は広いし騒音も少ない。その白いセダンは三ナンバーで、パワーもある。但し、メーカーが気になった。
「HYUNDAI」というメーカーの車なのである。日本語にすると現代自動車という社名。韓国製の車だった。
「いい車だね。ヒュンダイって韓国の車だね」
「韓国の人はヒョンデと云うんだって」
「お父さんは韓国の人?」
「そう、死んだ母も」
阿坂はそれを聞いて驚き、戦慄を覚えた。かなりのショックだった。
「じゃあ、さやかさんもそうなんだ」
阿坂は韓国のドラマをパソコンで度々観ていた。さやかは阿坂が好きな女優に似ていた。それに気づいたのは今が初めてだった。迂闊だった。
「でも、わたしは日本で生まれて普通の日本の公立の学校に通ったから、韓国語は全然知らないの」
「……」
さやかを見た感じはまるで日本人だし、話すことばはまるで標準語なのである。但し、美しさの度合いが並みではなかった。あの女優も、強烈なまでに美しい女性だった。そこが、民族の違いらしい。