アトリエの恋
「そのときは浩樹さんも手伝ってね」
「そうだね。手伝いたいね」
「何かリクエストはある?」
「好みが変わっているかも知れないからね、その時までに考えておくよ」
「……わたしの着物姿、写真に撮ってくれるのよね」
「失敗したなあ。花火のとき、浴衣姿を撮っておくべきだった……」
「来年の初もうでのとき、着物を着て行こうかな」
「そのときに写真を撮ろうね」
「そのときはよろしくね」
「今度の木曜日、どうしようか」
「父の車を借りて、ドライブはどう?」
「賛成だね。仕事で乗ってるのは軽だけど、どこかへ行きたくなるときがあるんだ」
「どこへ行きましょうか。海を見に行く?」
「紅葉の季節だからね、山の方へ行きたいな」
「木曜日だから混まないわね?」
「渋滞しても、さやかさんと一緒だから退屈はしないと思うよ」
「車の中で悪いことしちゃだめよ」
「……はい。誓います」
暗い道で二人は凝視め合い、微笑み合った。急に冷たい風が吹いた。阿坂はさやかを抱き寄せた。どこか遠くで緊急自動車のサイレンが移動している。それに重ねて電車の通過音も聞こえた。夏が終わっても、去年のように寂しくはないと、阿坂は思った。