アトリエの恋
ビルの二十一階にある居酒屋は団体の予約でいっぱいになっていた。
夜景を下降するエレベーターの中から眺めていた阿坂は云った。
「アオちゃんがいる店へ行こう」
「公園へ行くの?違うね。お店なのね」
阿坂は時々行く中華料理店へさやかを連れて行くことにした。
「同性同名の面白い人がいるところなんだ」
「アオちゃんっていうひとがご主人?」
「必ずそこにいるお客さんだよ」
そこは殆ど常連ばかりが集まる店で、居酒屋のようなところだった。いつもおりるバス停から三分、阿坂の住まいからは歩いて二分の場所にあった。
バスからおりるとそこには信用金庫があり、角を右に曲がると二百メートルほど歩く。
そこまでには焼き鳥屋、牛乳販売店、銭湯、薬店、お茶屋、印刷屋、韓国食材店などが
あったが、商店街という感じではなかった。
店の中はほぼ満席だった。天井の近くのテレビの音量が耳障りなほどである。入って来たカップルが一斉に注目された。
「いらっしゃい阿坂さん。あれ?噂の彼女かい。こんばんは」
長靴を履いて汚れた白衣のマスターはいつもの人の良さそうな笑顔でカップルに挨拶した。
「こんばんは。今夜も大繁盛だね」
「こんばんは。村上と申します」
さやかは可愛らしく挨拶した。
「村上さんですか。しかしまあ、めいっぱい可愛い彼女じゃないの。せっかく来てくれたんだから、その辺あけてやってよ」