アトリエの恋
自動改札の近くにさやかが居た。阿坂と眼が合うと彼女は笑った。振り反って阿坂の顔を見るひとが何人もいた。さやかが目立って美しいからだった。
「何?どうしたの?」
二人は並んで歩いて行った。
「だって、最近アトリエに来ないじゃない」
「頑張って仕事してるからね。何時から待ってた?」
「六時過ぎから……」
「ばかだなぁ……二時間半も待ってたわけ?」
「そうね。そういうことになるわね。あっ!新しいスーツだ」
下りのエスカレーターで二人は移動して行った。
「うん。今日も一本契約成立だよ。今月は四つめなんだ。凄いと思わない?」
「そうね……今度の木曜日もお休みよね」
「そうだよ。しかし。フルコミッションで七十パーセントだからね、給料日が愉しみだよ」
「お金持ちになるわね……木曜日、どこかに連れて行って欲しいなぁ」
「えっ。会社休むの?」
「そうしようかなって、思ってるの」
「とりあえず、今からどこかで食事するか」
「あの、ビルの二十一階のお店、行きたい」
エスカレーターの下で二人は向き合った。
「あそこか。いつも混んでるからどうかな。でも、行ってみようか」
さやかは阿坂の左腕を抱き抱えるようにして歩いて行った。