アトリエの恋
阿坂の説明を聞いた少女は、早速国語の問題を呼び出して答えを入力して行った。結果は満点で、ファンファーレが鳴り、三匹の子猫のカラーアニメが画面の中で踊った。
「愉しいね。これで高梨君がトップになったのね。ずるーい」
少女は嬉しくてたまらないといった表情を見せて云った。
「ねえ、お部屋に持って行ってもいい?」
「だめだよ。これから契約するんだからな」
少女は笑顔のまま出て行った。
「それではこちらが契約書となっております」
老人は妻に印鑑と預金通帳を出すように云った。
*
阿坂は電車からおりたとき、営業成績トップの北川の姿を見かけたような気がした。
だが、その姿は人混みに紛れてしまった。北川は給料が普通の会社員の五倍と云われる男だった。体形も身長も普通だが、常にエネルギッシュな印象だった。べっ甲の眼鏡をかけ、髭を生やしていた。彼の電話でのセールストークは迫力があった。話が佳境に入ると、立ち上がって大声で話す。顔を真っ赤にして汗をかきながら話すのである。五分も話が続けば、決まって相手の家へ赴くことになり、そうなれば殆どが契約成立となった。
借金が五千万円くらいあるらしいと聞いている。だから、どんなに頑張ってもあと数年は、地獄から抜け出せないだろうと噂されていた。