アトリエの恋
新しい仕事
「お母さん。お子さんの未来の幸せの鍵はお母さんが握っているんですよ」
「でも、わたしがいくら頑張るように云っても、テレビゲームばかりやってるんです」
電話で話している母親は声が若かった。まだ三十代ではないだろうか。
「塾へ行かせているんでしたね。塾で勉強してるから安心だと、お子さんは思ってしまっているんです。だから家に帰るとゲームということになる。ストレス解消のためかも知れませんね」
「そうなんでしょうね」
「いいですか、家で勉強する習慣を身につけないと成績は上がって行かないんです。学校ではゆとり教育です。塾だってその流れに沿っています。チャンスなんですよ。ほかの子よりちょっと頑張ればいいんですからね」
「でも、家では全然やろうとしないんですよ」
「あとで後悔しないように頑張りなさいと、云ってますよね。いい会社に入るためには
今しっかりやらないとだめだとか云ってませんか?」
「それはよく云いますね」
「お子さんは第四中学の生徒さんでしたね。私共は第四中学のカリキュラムに合わせた
勉強方法をご提供させて頂いています。今学年トップの高梨君はご存じですか?」
「家が近いから知ってます。学年トップですか……」
「あの子は我々の指導の下で、たった三箇月で偏差値が倍近くまで跳ね上がったんです」
「前は普通の子だった高梨君が……そうそう、急にトップになったから驚いたって、うちの子が云ってましたよ。そうだったんですか」