アトリエの恋
「警備会社って、意外に気位が高かったね。うちは大企業の中に入って仕事をしてます。
格調高い仕事なんですよ。なんて云ってた」
さやかは焼けたものを小皿に取り分けてくれる。
樫村が云っていたことを阿坂は思い出した。さやかと夫婦になったような気分だった。
「そう。でも、大卒じゃないと入れないとか、そういうわけじゃないんでしょ?」
「よく判らないけど、自衛隊上がりとか、元警察官とかが多いみたいだったね」
「営業はやりたくないの?」
「媚へつらうというイメージが、ちょっとね」
「みんなやってることよ。だけど、浩樹さんには好きな仕事をさせてあげたいわね」
食べてから阿坂は頭を下げた。
「済みません。ご心配頂いて……」
「そんな他人行儀に云わないで」
さやかは少し笑った。
「さやかさんと一緒にいると、凄く癒されるよ。ありがとう」
お好み焼きの店を出たふたりは、駅前の広場まで走った。
最終のバスは混んでいた。阿坂は右手で天井のパイプを掴み、さやかの背に左腕をまわしている。さやかは阿坂の腰を抱くようにしている。
「このままずっと離れたくないよ」
さやかの肌の美しさに感心しながら、耳元で囁くように阿坂は云った。
「わたしも……」
さやかは背伸びをして応えた。