アトリエの恋
仕事探し
風景画を描いているときは夢中になっていることが多いのに、静物画の場合はそういうことが余りない。阿坂が花瓶のコスモスを描いている場所はさやかが描いている場所から五メートルも離れていた。
「阿坂さんちょっと来て」
樫村に呼ばれた。気乗りしていなかった阿坂はパレットと絵筆を置き、ゆっくりと立ち上がった。
「用件は何かな?」
「仕事探してるらしいね。あった?」
「全然だめ。製造業は少ないね」
ハローワークで求人情報を得るためのパソコンを使うためにはかなり待たされるのだが、
検索できるのは三十分以内だった。
「海外へ仕事を持ってかれてるからね」
「ハローワークに行ってみると、仕事を探す人たちが大勢詰めかけてるね」
「そうだろう。職種を変えて探せば」
「営業とかやったことないからね」
「やってみればいいんだよ」
「そうよ。やってみればいいのよ」
さやかだった。
「これからは製造業の時代じゃないよ」
梅田がそう云った。
「新しい自分を発見できるわ」
雪奈が笑顔で云った。