アトリエの恋
餌をつけた阿坂はちょっと投げて引いて来た。すると、凄い手応えに驚かされた。大物がかかった。上げるのに苦労する程だった。
「わあ、大きい!凄い!」
さやかは大喜びである。
三十センチくらいのカレイだった。暴れるそれをクーラーボックスに収めたとき、阿坂の携帯電話に着信した。
勤め先の同僚からだった。その報せによって、阿坂は殴られたようなショックを受けた。
「どうしたの?顔色が悪いわ」
「会社が倒産だって……写真の時代は終わったんだね」
「大変じゃない。どうするの?」
さやかは心配顔になった。
「まあ、失業給付を受けながら、仕事を探すしかないね」
「来週からは逢えないの?」
さやかの顔色は更に優れなかった。
「仕事探しが最優先だけど、逢って欲しいな」
「そうよね。わたしが浩樹さんを励ますから、元気出してね」
「ありがとう。さやかさんと出会えて良かった」
手を取り合う二人のまぶたから、大粒の涙がこぼれ落ちた。