アトリエの恋
「またまた感動だなぁ。会社の人が云ってたけど、とにかく料理が好きな嫁さんをもらうべきだって、力説してたよ。その人は肉屋のコロッケとか、冷凍食品ばかり食べさせられてるらしくてね」
お握りの塩加減も良く、どの料理も最高の味で、大満足の昼食だった。
二十センチ程のアイナメを、阿坂が釣った。さやかには同サイズのギンボウが来た。
ギンボウは赤っぽい蛇のような魚である。ウツボにも似た顔つきで、ギザギザの歯を見ると強暴そうな印象だった。阿坂もタオルで巻いて恐る恐る針を外した。
「海蛇みたいね。厭な予感」
「でもね、高級な料亭へ行かないとギンボウのてんぷらは食べられないらしいよ。あなごより美味しいんだって」
「そう、でも怖いわ」
阿坂もギンボウを釣った。
波が高くなってきたので上がることにした。アンカーを引き上げるのが大変だった。
今日は艫にさやかがいるので助かった。独りのときは舳先が沈む上に大揺れするので海に落ちそうな気がする。
波の殆どない港内に戻ってきたときの時刻はまだ午後三時頃だった。
「餌が残ってるから、ここでちょっとやってみよう」
「まだミミズが残ってたの?」
「この餌はアオイソメっていうんだ」
「それだけは触れないわ」
「夜釣り専門の人は自分の口の中に入れておくらしいよ」
「わあ、気持ち悪い」
さやかは顔をしかめた。