アトリエの恋
大変な報せ
穏やかな夏の朝の海に、一艘のライトブルーのボートが浮かんでいる。時刻は午前七時になるところである。ひと組のカップルが、そのボートの上でそれぞれ短い釣竿を持っている。竿の先から釣り糸が幾らか斜めの角度で、緑色の海水の中に没していた。
二人とも麦わら帽子を被り、オレンジ色の救命胴衣を装着している。
ボートの舳先からのロープは、海底のアンカーまで斜めに繋がっている筈である。
晴天の夏の海だから気温は高いものの、心地よい風が吹いていた。
しかし、魚信はない。
「また移動したほうがいいかな」
「あっ!」と、さやかが云った。その表情は尋常ではない。
「合わせて!」
「えい!」
さやかは竿を立てた。
「どう?」
「だめだったみたい。でも、びびって、感じた」
彼女は笑顔だった。
「餌をつけ直すから巻いて」
「はい」さやかはリールのハンドルを回し始めた。
「感想は?」