アトリエの恋
コース中最高高度の峰までの最後の登りは、それ程急傾斜ではなかったが、そろそろエネルギーが切れる頃であり、阿坂は疲労困憊した。また湧きだした霧のため、視界を全く得られなかった。 ふたりは岩角に腰を下ろして山小屋で渡されたお握りを食べた。
「昨日は願い事ができて良かったね」
「浩樹さんは願い事がもう叶ったんでしょう」
さやかは顔を赤らめながら云った。
「願い事をした直後に叶ったんだからね、山の神様に感謝してるよ」
「幸せ?」
「幸せだよ」
さやかは阿坂の登山靴を軽く蹴った。
その先の道は、良く踏まれた道であり、途中から傾斜のない道が長く続くので、大変快調にとばすことができた。 しかも殆ど誰とも会わず、 静かな山の雰囲気を存分に味わうことができた。
阿坂はさやかに二度目の口づけをした。
「この山は昔の山岳信仰の対象だったらしいよ。鉄の物見櫓があったとか、 聞いたことがある」
褐色のシカが再び現れて、緑の中を走っていた。 自然を満喫できる所だった。