アトリエの恋
「秘密よ」
さやかは嬉し過ぎる気持ちをその表情に顕わしている。
その昼食は阿坂にとってかつてないほどありがたく、感動的なものだった。
食後、彼は少し離れた場所へ行って熊笹に放尿しながら涙ぐんだ。
そこから三時間以内で最終目的地のその頂上に着いた。天候は好転し始めていた。十人前後の登山者たちに挨拶した。
そこは、かなり広いスペースがあり、大きな山小屋があった。立派な石の碑もあった。
「この頃は頂上が立派になっているところが多いね」
「そうなの?」
「うん。明日はここから縦走だよ」
「愉しみねぇ」
「晴れて来て良かったね」
そこからの縦走路は、今まで歩いて来た山路と違い、人が手をあまり入れていない自然な形が残っているのだと、阿坂はさやかに告げた。その先を眺めると、折からの霧も手伝って深山の趣を感じさせてくれた。
山小屋での夕食はカレーライスだった。泊まる部屋は男女別々だった。