アトリエの恋
「猫だったら撫ぜてあげたいけどね」
さやかはそういってもう一度笑った。
朝から登り初めて五時間程で三つめの頂上に着くことができたが、そこは濃いガスに覆われていた。その頂上からは、本来ならもっと高い山々が眺められる筈だったが、生憎の天候で全く視界は得られなかった。休憩中の数人の登山者に挨拶した。
「疲れただろうね。昼食にしたいね」
「柄にもなくお昼のも作ってきたのよ。おいしくないと思うけど」
「どんなものを作ってくれたのかなぁ。凄く愉しみだよ」
そこにあった木のテーブルに、さやかは手作りの弁当を出してならべた。おにぎりをメインに、卵焼き、きんぴらごぼう、煮物、サラダ、きゅうりの一本漬け、おはぎ。
「まさか、こんなところでフランス料理のフルコースとは思わなかったけど、それに匹敵するおいしそうな普通の弁当だね」
隣のテーブルの登山者たちに笑われてしまった。
「浩樹さんって……」
「天然とかって、云うのかな?」
「愉しいひとだわ。好きよ」
「おお!このきゅうりはこの前のより美味いよ!何かアレンジした?」