アトリエの恋
夜の九時には殆どの登山者が就寝したが、阿坂とさやかは小屋の外へ出た。快晴になった夜空には圧倒的な数の星が煌めいていた。
「何なのこれ。信じられない」
「度肝を抜かれるということばは、この場合しか使っちゃいけないね」
「星が落ちてきそうよ。刺さったらどうしよう」
「そんな感じだね。また詩が書けるね」
「ことばをなくす美しさよ」
「首が痛くなるから横になろう」
阿坂は持ってきたレジャーシートを地面に広げた。
「浩樹さんって、本当は……」
「え?どうしたの」
「……スケベでしょう」
「だって、流れ星を見たいって……」
「大丈夫?悪いことしない?」
「山は神聖な場所だよ。何もしないから横になろう」
「本当?誓う?」
「誓うよ。神様。私はスケベではありません」
「……じゃあ、星を見るだけね」