アトリエの恋
すれ違った見知らぬ登山者たちと、何度も挨拶を交わした。一緒に記念撮影をして欲しいと、中年の男たちにせがまれて希望を叶えてやった。阿坂もカメラを渡して自分たちのツーショットを撮ってもらった。
「二つの頂上を越えてきたのよね。頑張ったね」
三時間半以上も登ってきたが、さやかは意外に元気だった。
「もう少しで最初の目的地の山の頂上だよ」
「嬉しいわ。山の空気は全然違うのね。浩樹さんも別人のようにたくましいと思ったわ」
「ありがとう。それにしても頑張ったね。さやかさんを見なおしたよ。さあ、頑張ろう」
そこからの登りはハイキングコースという感じになり、二人は手を繋いで歩いて行った。
「山では知らない人に挨拶するのね」
「そうだね。そうすると気分が盛り上がるね」
「でも、百人くらい続いて来たら疲れるわね」
「たまに三十人くらいのパーティーとすれ違うことはあるよ」
「あっ!シカがいる」
「挨拶はいらないよ」
「シカとする?」
二人は暫くの間笑った。シカは逃げなかったが、二人は近づかなかった。